vol.3 映画「万引き家族」監督:是枝裕和 & 女優:松岡茉優 インタビュー

万引き家族インタビュアー:伊藤さとり

 

ーー第71回カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールの受賞、おめでとうございます。 

松岡:おめでとうございます。私のところにもたくさんの方から祝福のメールが届きました(笑)監督、カンヌ国際映画祭の授賞式であのそうそうたるメンバーの中で、センターに立った時はどんなことを思ったんですか? 

 是枝:2009年に急死した僕の精神的な父親みたいな存在だった安田匡裕プロデューサー(株式会社エンジンフィルム)という方がいるんです。この仕事をはじめてから、精神的にも金銭的にも、すごく面倒をみてもらった方で。『空気人形』の完成直前に彼が亡くなって、そこから僕の映画監督人生が大きく動いていくんですよ。僕は、安田さんが亡くなる前、『歩いても 歩いても』を撮った時ですが、カルティエの時計を頂いたんです。あの作品は安田さん的に“すごく良かった、いい映画”だったようで。当時、僕はシネカノン(映画会社)が倒産して配給収入ゼロっていう散々な目にあっていて、相当凹んでいたんです。そうしたら、「人から貰ったけど、使わないから、やるよ」って時計を渡されたんです。でも、それはわざわざ買って下さったものなんですが、僕はその時計をしなかったんですよ。そしたら、亡くなった後になって、僕がいないところで西川美和監督に「あいつ、時計をやったのにしているところ見たこと無い」って文句を言っていたようで(笑)それからは、大事な時には頂いた時計をしていくようにしているんです。今回もカンヌでしています。だから、安田さんを思い浮かべましたね。 

 

ーーこの映画のテーマでもありますね。血のつながりではない家族。ところで、是枝監督が松岡茉優さんに注目したのは何の作品からですか? 

是枝:最初は『桐島、部活やめるってよ』ですね。 

松岡:さとりさんと出会った作品ですね。 

是枝:あと、つい最近の作品でドラマ『問題のあるレストラン』は素晴らしかったですね。脚本の坂元裕二さんが彼女を見て、脚本を書き直した気持ち、凄くわかる。3話があまりに素晴らしかったから、7話の出演シーンを増やしたんだって。連ドラの醍醐味ですよね。 

 

ーー『万引き家族』もキャスティングが決まる前と後では脚本が変わっていると聞きました。確か、松岡さんの役は「太った取り得の無い子」だったと。 

是枝:全然違ってますね。「この子で撮りたい」と思ったら、その子で書くのが一番! 

松岡:私はスタンバってました。太るのか!って(笑) 

是枝:見た目で入らないで「この子でいく」って決めました。 

 

万引き家族

ーーJK見学店で働く女の子を演じる松岡茉優さんを見て「松岡茉優さんってこうゆう役でこうゆう表情をするんだ」って驚きました。すごく新鮮で斬新で、「何を考えているんだろう?」って思えるキャラクターって難しいですよね。そして「こうゆう展開だったんだ!」っていう驚き。それまで、何故、彼女がそうなったのか、わからなかったので。
松岡さんは、是枝監督と仕事をご一緒してどうでしたか? 

松岡:第一に“是枝監督のところで学んだ事は、他の現場で活かせるのかな?”第二に“私の節目として監督に出会っていなかったら、私ってどういうふうに成長していったんだろう?”と思いました。監督のところで学んだ事は、他の現場で活かせるんですか? 

是枝:逆に足を引っ張ることもあると思う(笑)「違う」って言われるんですよね。それが、僕の悩みでもある。特に子どもとか、特殊なやり方(台本を渡さずにその場でセリフを伝える)で撮らせてもらうから。自分が魅力的に撮っている自信はある。だけど、その子が他所の現場に行った時に、全く違う文脈の中にはめ込まれると、広瀬すずさんの様にそれにも適応出来る子はいいんだけれど、そうじゃない子もいるんですよね。それで、ちょっと責任を感じたりはします。 

松岡:私は23歳で是枝監督のお芝居の世界を知ったんです。でも、それを6歳や10歳で知っていたら1回もまれて、でもその経験が活かせる時が必ず来ると思うので、今とは違っていたと思います。 

是枝:反省しているんですよね。履歴書を信用してないところがあって(笑)脚本に関する本とか読むとね、登場人物たちの履歴書をちゃんと作れって書いてあるんです。倉本聰さんなんて家系図がありますからね。三世代前までさかのぼって作るって聞いたことあるし。履歴書とかを作った方が、役者がリアリティを持って演じることが出来るっていうのもわかっているんだけれども、やりたくない自分がいる。現場でお芝居する時に、履歴書ってないものだから、それを頼りにして欲しくない気持ちもあって。現場で役者が見せてくれるものを見て考えを膨らましていく、それが面白いから。もちろん、それで乗り切れない部分もあるから、まだまだ成長しないと。 

松岡:私は、自分で作った履歴書を破りましたよ。もちろん、履歴書って確かに頼りになる存在なんです。自分が役を演じる上でのバイブルになるから。やっぱり“守り”なんですよね。でも、監督から新しい事を言われたりすると、わからなくなる。だからバイブルを黒く塗りつぶして、次の日から今日現場で感じた事を書くようになりました。日記帳みたいに(笑) 

 

ーー監督から絶大な信頼を受けた女優さんだからですね。 

松岡:私の事はいいんです(照れ笑い)でも、是枝監督が100人いたら困ります(笑)是枝監督から学んだ事は、別の現場で別の形で活かしたいと思うし、逆に別の現場で学んだ事は、是枝監督の現場に戻れた時に活かしたいと思います。やっと落ち着いて考えられるようになりました。撮影が終わってすぐに三谷幸喜さんの舞台だったのですが、流動的という意味では似た監督だったかも? 

是枝:役者を見て変えちゃうんでしょ。作品は、自分とは全然遠いんだけど、やっている事は近いなって(笑)三谷さんの稽古場とか見学させてもらった事があって、その日の役者を見ながら翌日書いてくるっていう。意外に似てるなって思いましたね。 

松岡:是枝監督の現場でも思った事ですが、監督と俳優は信頼関係で結ばれていたいなって。時には反発することでより美しくなるものもあると思うから、そうあるべきとは思わないけど。私は、恐くて反発出来ませんが(笑) 

伊藤:是枝監督が以前おっしゃった言葉で忘れられない言葉があります。それは「これまで自分が作ってきたものが商業映画をやることで、つぎはぎのようなものになってしまうのが悲しい」っていう言葉です。 

是枝:色々な制約が入る作品ってあるんですよね。 

 

万引き家族

ーーそういう壁にぶつかる監督ってたくさん居ると思うんです。是枝監督は、それを乗り越えて今があるんですよね。答え合わせをさせる映画ではなく、観客に答えを投げつけられる映画を大規模に作れてしまう事がそれを証明しています。“志”でここまで突き抜けたんだって事に、深く感動していて。 

是枝:それは、僕が他の監督よりズルいんです(笑)恵まれたというか、チームが安定しているから。安田プロデューサーがいなくなって「どうする?」となった時、自分が自分のプロデュースをしないと映画を作れなくなるって感じて。だから、自分は監督だけど、もう一人自分をおいて“何を撮らせて、誰と組むのか”をやっていこうと思いました。すぐに上手くいったわけではないですけど。やっぱり、福山雅治さんとの出会いが大きかったですね。福山さんには、とても感謝しています。福山さんが僕に興味を持って、フジテレビのプロデューサーを通じて「会いたい」と言ってくれた事で、フジテレビで映画『そして父になる』が作れた。福山さんを介してチームが出来た。自分の中にあった作家性みたいなものが、いい意味で開かれた。謙遜でもなく、僕は作家よりも職人の自分の方が好きなんです。職人としての方が上手だと思うし。そこが、うまい具合に融合して、この5~6年、とてもいい形ができていますよね。 

松岡:妹と『三度目の殺人』を観たんです。一緒に観に行った事で妹の成長を感じたし、二人で本当のところはどうなんだろうって話し合って(笑)妹に是枝監督に会ったら『三度目の殺人』の本当の真実を聞くって約束したんです。現場に入って、日々、脚本が変わっていく状況の中で、もしかしたら『三度目の殺人』の答えはないかも?と思うようになって、答えを聞くのをやめました(笑) 

 

ーー私も監督に聞いた気がするのですが、答えてくれなかった。 

 是枝:探っているのが楽しいんです(笑) 

 

ーー今回の映画もそれが楽しくて“ありがとう、これが映画だ!”って思いました。 今後、新人の監督さん達をプロデュース(自身が設立した製作者集団「分福」&是枝監督監修によるオムニバス映画「十年」)するんですよね?監督は、今後どのような方向に向かっていこうと思っているのですか? 

是枝:若手のプロデュースって、映画監督はあまりしないけど、テレビのディレクターはするんですよ。自分のADについていた子がディレクターデビューする時、プロデューサーをするって普通の事なんですよね。その感覚でやってる。プロデュースって言ってもそんなに偉そうな事は出来ないけど、そんなに無理な事ではない。むしろ楽しい。 

松岡:私が樹木希林さんぐらいの歳になってお芝居をしていた時に是枝さんの後輩がいるのは嬉しいです。 

是枝:今、西川美和(監督)がいて、砂田麻美(監督)がいて、来年一人デビューするんです。分福で新人採用した一期生で、柳楽優弥くん主演で監督デビューするんですよ。グループ活動っていうか世代を次に渡す活動?(笑)僕にも刺激になるし。監督って、だいたい一人でやってるから寂しいんですよね。それに、監督ってつまらなくなるんですよ。面白い作品を作っていたのに突然つまらなくなる。監督の仕事って落とし穴がたくさんあるんですよね。常に自分の作っている作品を面白いと感じるためには、スタッフの入れ替えも必要だけど、周りに「最近、おまえの作っている作品つまらない」と言ってくれる人がいた方がいいはず。だって、現場で一番偉いから。監督にも何でも意見がいえる環境を作っていきたいと思っています。僕はMなんじゃないかな(笑) 

 

万引き家族

ーー松岡茉優さんは、樹木希林さんと安藤サクラさんと共演して、どうでしたか?女優としての考え方とか変化がありましたか? 

松岡:健やかにすくすく育ちたいと思いました。私は、樹木希林さんや安藤サクラさんのような太陽や月の光を浴びて、土を耕して、良い作物を育てて、生産者はこちらですってやっていけば、きっとまためぐり会えるし、誰かの心に届くと思っています。高校を卒業したくらいから自分と周りを比べなくなったんですが、お二人を見てあらためて自分の作物を育てようと思いました。太陽を浴びて健やかに育ちたい、トマトの様に(笑) 

 

ーー是枝監督は、女優として生きる人たちと女優として生きる人を会わせたって事ですね。 

松岡:あぁ、確かにその言葉!“女優さんになりたい”って初めて思ったんです。今までは、“俳優として”っていう一人称を使っていたんですが、お二人を見て“女優になりたい”って。“女優がいい”って思いました。 

 

ーー私は、この映画本当に好きです。是枝監督が愛している人たち、是枝監督を愛している人たち、“志”が同じ人たちが揃っている映画だと感じています。池松壮亮さんや池脇千鶴さんがポイントで出るっていうのも凄いですよね。 

是枝:“志”そうですね。スタッフもキャストも出てくれた人全員が、何が素晴らしい映画かって事を共通認識が高いところで共有できたと思う。それを現場でも感じる事が出来ました。 

 

ーーだからこそ、映画の根底はとても深いテーマなんだけど、それがいやらしく感じない。映画が終わった瞬間、心で気付く。 

松岡:私は、子供の頃のホームビデオを見ている感じ。まだ自分の出ているこの作品を客観的に見られないです(笑) 

 

インタビュー日:2018年6月2日(土) 

 

『万引き家族』
公開日:2018年6月8日(金)
劇場:全国にて
配給:ギャガ
公式HP:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku
(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
(C) 2018『万引き家族』製作委員会

▼作品ページ
https://cinema.co.jp/title/detail?id=82540

万引き家族

伊藤さとり(いとう さとり)

映画パーソナリティ。邦画&洋画の記者会見や舞台挨拶を週5回は担当する映画MCであり、年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。
TSUTAYA店内放送「WAVE-C3」で新作DVD紹介のDJ、ケーブルテレビ無料放送チャンネル×ぴあ映画生活×Youtube:動画番組(俳優と対談)「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、雑誌「シネマスクエア」コラム、スターチャンネルで映画紹介他、TV、ラジオ、雑誌、WEBなどで映画紹介のレギュラーを持つ。心理カウンセリングも学んだことから映画で恋愛心理分析や恋愛心理テストも作成。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック


お気に入り映画館

よく利用する映画館を登録しよう。登録した映画館の上映スケジュールが確認できます。

最新映画ニュース
岡田結実画伯ととろサーモンが新種を生み出す…!?個性溢れる自由研究の発表に会場騒然?!『ジュラシック・ワールド/炎の王国』大ヒット記念イベント
岡田結実画伯ととろサーモンが新種を生み出す…!?個性溢れる自由研究の発表に会場騒然?!『ジュラシック・ワールド/炎の王国』大ヒット記念イベント

2018.08.17

『デッドプール2』ブルーレイ&DVD発売記念 劇場公開版より約15分長い!「スーパードゥーパー $@%!#& カット(エクステンデッド版)」日本初のスクリーン上映が決定!!
『デッドプール2』ブルーレイ&DVD発売記念 劇場公開版より約15分長い!「スーパードゥーパー $@%!#& カット(エクステンデッド版)」日本初のスクリーン上映が決定!!

2018.08.17

「LINE」上でも“銀魂祭り”!“豪華”と“個性”が大渋滞!映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』LINE公式スタンプ発売決定
「LINE」上でも“銀魂祭り”!“豪華”と“個性”が大渋滞!映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』LINE公式スタンプ発売決定

2018.08.17

最新映画ニュース一覧

映画の最新情報はここでチェック!記者会見、お得なイベント情報など毎日更新!
セレブ・ニュース
テッサ・トンプソン、実写版『わんわん物語』出演へ
テッサ・トンプソン、実写版『わんわん物語』出演へ

2018.08.17

ローラ・ダーン、映画版『若草物語』出演へ
ローラ・ダーン、映画版『若草物語』出演へ

2018.08.17

アンソニー・マッキー、『The Woman in the Window』出演へ?
アンソニー・マッキー、『The Woman in the Window』出演へ?

2018.08.17

セレブ・ニュース一覧

気になるハリウッド・セレブの最新情報を“セレブのメッカ”ハリウッドから毎日お届けします☆
プレゼント
『コーヒーが冷めないうちに』試写会(東京・日本教育会館 一ツ橋ホール・9/12)

試写会20組40名様

『コーヒーが冷めないうちに』試写会(東京・日本教育会館 一ツ橋ホール・9/12)
『コーヒーが冷めないうちに』試写会(東京・日本教育会館 一ツ橋ホール・9/11)

試写会20組40名様

『コーヒーが冷めないうちに』試写会(東京・日本教育会館 一ツ橋ホール・9/11)
『クリミナル・タウン』クリアファイル

グッズ5名様

『クリミナル・タウン』クリアファイル
『タリーと私の秘密の時間』 映画オリジナル「タリーと私のランチトート」

グッズ3名様

『タリーと私の秘密の時間』 映画オリジナル「タリーと私のランチトート」
『劇場版七つの大罪 天空の囚われ人』特製B5ノート

グッズ5名様

『劇場版七つの大罪 天空の囚われ人』特製B5ノート
『ペンギン・ハイウェイ』 オリジナル缶ホルダー

試写会2名様

『ペンギン・ハイウェイ』 オリジナル缶ホルダー
『ウルトラマンタロウ HDリマスター版』オリジナルクオカード

グッズ2名様

『ウルトラマンタロウ HDリマスター版』オリジナルクオカード
『きらきら眼鏡』試写会(東京・ニッショーホール)

試写会10組20名様

『きらきら眼鏡』試写会(東京・ニッショーホール)

プレゼント一覧


TOP