vol.24 映画『雪子さんの足音』吉行和子さん×浜野佐知監督

映画「雪子さんの足音」吉行和子さん×浜野佐知監督

インタビュー:伊藤さとり
インタビュー日:2019年4月3日(水)

 

ーーお二人のお付き合いは21年目ぐらいだそうですが、それだけ長いお付き合いなら阿吽の呼吸なのではないですか?

吉行:たまにしか会わないんですけどね。

浜野:(笑)浜野組の現場でしか会わないですよね。

吉行:浜野監督の映画には、何本も出して頂いているので嬉しいです。とにかく現場が楽しいんですよ。非常に活気があって特別ですね。

 

ーー浜野監督が吉行さんとお仕事をされる上で、一番の楽しみは何ですか?

浜野:吉行さんは、とにかく大好きで、尊敬して止まない女優さんなんです。最初にお会いしたのが、1998年の私の一般映画第一作『第七官界彷徨―尾崎翠を探して』です。それまで私はずっとピンク映画の監督で、初めての一般映画だったんですけど、その作品に吉行さんが出演して下さったんです。お金のない自主制作でしたから現場は本当に大変でしたけど、吉行さんはいつでも背筋をすっと伸ばして静かに現場を見ていてくれて、ああ、芯の強い女優さんだなあ、私のこの映画を撮りたい気持ちを汲んでくださっているんだな、と感動したんです。それで、2作目に私がずっと撮りたかった高齢女性の性愛をテーマにした映画『百合祭』(2001年)に迷わず吉行さんに出演をお願いしました。ミッキー・カーチスさんとのベットシーンまである役だったんですが、吉行さん、原作と脚本を読んで下さって、すぐにOKのお返事を下さったんです。お願いした私の方が驚いたんですが、吉行さん「私たちくらいの年になると、誰かのお母さん、誰かのお祖母さん、と固有名詞の無くなる役が多いんです。この役のように70歳を過ぎてからも瑞々しく生き直していく女性を演じられるのはうれしい」とおっしゃってくれたんです。『雪子さんの足音』で一般映画は5本目になるんですが、吉行さんには全ての作品に出演して頂いています。

映画「雪子さんの足音」吉行和子さん×浜野佐知監督

 

ーー浜野監督と組んでいる作品は、他とはまったく違った吉行さんの魅力が出ていらっしゃいます。特に『百合祭』を観た時の衝撃は忘れられません。今回の作品では、寛一郎さん演じる男性を女性たちが好きになって、翻弄される話と思いきや全く違いますよね。それが見事過ぎて気持ち良かったです。今回、吉行さんは浜野監督に“とんでもないバーサンが演りたい”とリクエストされたとお聞きしました。

吉行:そうですね。私も歳ですから演じる役は、おばあさんばかりなんです。おばあさん役って本当に生まれた時からおばあさんって思っているんじゃないかしらって思うくらいにつまらないんですよ(笑)おばあさんにだって人生はあるわけでしょ。日頃から不満に思っていたんですが、この『雪子さんの足音』をやろうってなった時に雪子さんは、確かにおばあさんですけれども彼女の中の女の部分とか色々と出てきて“これだよ!”って(笑)本当にこの役を頂けて嬉しかったんです。

映画「雪子さんの足音」吉行和子さん×浜野佐知監督

 

ーー面白かったです。寛一郎さん演じる薫に対して“私をパトロンにしなさい”みたいな事を堂々とおっしゃるじゃないですか。

吉行:女って本当に面白いんですよ(笑)皆さん、若い女性の人しか面白がらないけど、ずっと見ていたら色々な女の人生があって、それがとても面白い。どうしてそこを書いてくれないんだろう、描いてくれないんだろうって思っているんですけど…、この映画を観た方もそれを思ってきっと“ヤッタ”っ感じで喜んでくれると思います。

 

ーー雪子さんが薫の手を握るシーンは、監督の演出なのですか?

浜野:あれは吉行さんのアドリブです。

吉行:手を握るところは、きっとしょっちゅう握りたかったんだと思うんですよ(笑)でも抑えて、やっちゃいけない、彼が嫌な気持ちになったら嫌だって。そこらへんは気を付けていたけど、あの時は切羽詰まって部屋に入って一緒に食事をしたいって方が先にたってしまって、それに彼が病気にならないよう栄養を取ってもらいたいとか色々な気持ちが混ぜこぜになって思わず手を握ったっていう感じにしたんです。だから慌ててすぐに手を離したんですけどね。本当はずっと手を握っていたくて、離したくないの(笑)引っ張り込みたいんだけど、そこは節度を持って。

 

 

ーー表情の一つ一つが全てミステリアスというか。監督のカメラワークも面白かったです。

浜野:そうですか(笑)もともとこの企画は、吉行和子さんありきで始まったんです。

2017年の6月頃かな、菜葉菜さんや吉行さんのマネージャーさんたちと飲んでいて、マネージャーさんが吉行さんに浜野監督と飲んでるってメールしたら、吉行さんから“とんでもないバーサンが演りたいって伝えてね”っていうメールが来て(笑)、そのメールをマネージャーさんから見せてもらったんです。私、2009年にスウェーデンのマルメで開催されたマルメ国際女性映画祭に『百合祭』が招待されて行ったんですが、その映画祭が“何故、男優は歳をとっても主役を演じられるのに、高齢の女はスクリーンに描かれないのか?”というテーマを掲げて、男優や男性監督たちと真っ向勝負でディベートするんですよ。私もシンポジウムにパネラーとして参加したんですが、本当に目を見開かされました。日本ではあり得ない事ですよね(笑)。

それで、その答えになるような映画を作りたいとずっと思っていたんですが、吉行さんのメールを読んで“これだ!”って(笑)。それで「とんでもないバーサン」を探し始めたんですが、その2か月後に木村紅美さんが雑誌「群像」に「雪子さんの足音」を発表されて、そこに雪子さんというとんでもないバーサンがいたんですね(笑)。

雪子さんの足音

吉行:本当に運が良かったと思います。原作者の木村紅美さんとは、お目にかかった事もなかったんです。なのに”何で私がやりたいような役を書いて下さったのかしら”って思いました。それを浜野監督が見つけて、私にとっては奇跡のような感じです。

浜野:現場も楽しかったですね。自主制作ですから予算も無いし、オールロケなのですが、既に私の頭の中に「吉行雪子」というイメージがあるので、ここに吉行さんを立たせたら、この階段を吉行さんが上ったら、と吉行さんのイメージに合うことだけを考えて撮影しましたね。

 

ーー雪子さんが住んでいる屋敷(月光荘)は、既に建っている建物という事ですね。

浜野:「旧エンバ-ソン住宅」という静岡市指定有形文化財です。

吉行:素敵でしたよ。

 

ーー建物も一つの主人公のように見えていて、そこに雪子さんがずっと住んでいる。美術も衣装も全てが意味ありげでした。衣装はどうされたんですか?

吉行:自前です。

浜野:それが凄く嬉しかったです。吉行さんに最初に脚本を読んでもらう時は、”吉行さん、受けてくれるかな?気に入っていれるかな?”って、いつもドキドキするんですね。

そうしたらマネージャーさんが”衣装を選んでいましたよ”って、洋服がずらっと並んだ写真を見せてくれたんです。嬉しくてビックリして。すぐにその写真を持って脚本家のところに行って”吉行さんが、衣装を探してくれている”って、感極まって泣きましたね、二人で(笑)。

吉行:『雪子さんの足音』の脚本を読んだ時にイメージがわいて来たんです。私が持っている洋服の中にイメージに合う服がありそうだなって(笑)色々と探し出して、それを見て頂いたんです。

 

ーー劇中に登場する食べ物にこだわりを感じました。

浜野:そうですね。雪子さんにとって料理は重要なモチーフですからね。ただ、吉行さんご本人は料理をしないという事を知っていたので、だったら逆に絶対家では作らないような料理をドーンと出そうと思ったんです。

吉行:ビックリしましたよ、あんまりにも豪華で(笑)静岡市にある調理製菓専門学校の鈴木学園の皆さんが協力して下さったんです。

浜野:生徒さん達が、シーンごとにチームを組んで料理を作ってくれたんです。先日、その生徒さん達が卒業したらしんですが、卒業式の答辞で『雪子さんの足音』の撮影現場の話をしてくれたみたいです。凄くいい経験になって、楽しい思い出ですって(笑)

 

ーーこの映画は冒頭からラストまで、食べ物ひとつとってもファンタジーだと思うんです。全てが浮世離れしているじゃないですか。冒頭やラストカットは、監督のお考えなのですか?

浜野:ラストと冒頭に関しては、どうしても撮りたかったんです。同じ木村紅美さんの小説に「たそがれ刻はにぎやかに」という作品があるんですが、それは古びた洋館に一人で住んでいるクララさんという高齢女性の話で、こちらは設定からして吉行さんのイメージそのままという感じなんですよ。雪子さんは高円寺の外階段のあるようなボロアパートの大家さんという設定なのですが、それではあまりにも吉行さんに似合わないのでクララさんと合体させたんです。「たそがれ刻はにぎやかに」にはクララさんが透明人間の男性に、爪を切ってもらう描写があるんですが、ゾクッとしましたね。爪を切るエロチシズム、肉体が消滅しても消えることのない“女のエロス”を「雪子さん」で描きたいと思ったんです。

雪子さんの足音

 

ーー吉行さんは、雪子さんを演じるにあたってエロスの部分で意識したところはありますか?

吉行:私は、全然意識してなかったです。私が自然と雪子さんになっちゃったから一人でに出て来ちゃったんじゃないかしら。雪子さんは、特別に台詞を覚える苦労もなく、読んだらドンドンと自分の中に入って来て、苦労しないで喋れました。寛一郎君が“吉行さんは、よく台詞を覚えてますね”って唯一褒めてくれたんです(笑)

雪子さんの足音

 

ーー吉行さんは、今回のようにスラスラと台詞が出るような役に今まで出会った事がなかったんですか?

吉行:そうですね。『百合祭』で花開いたと言えばいいのかしら(笑)私が映画に出るようになったのは、歳をとってからですから来る役と言ったらあんまりそういう役じゃなかったんです。女盛りの時は、舞台ばっかりやっていたので映画ではチャンスを頂けなかったんです。だから『百合祭』をやる事によって、“女”を知ったという感じかしら。

 

ーー大島渚監督の『愛の亡霊』(1978)を観た時に吉行さんが素晴らしくてお美しかったことを覚えています。今は、随分と若い女優さんが多く映画やドラマに出演されていますが、私が育った頃は逆に大人の女優さんが、たくさん出演されている作品が多かった印象があります。ずっと女優をやってこられた糧は、何でしょうか?

吉行:やっぱり、私は芝居が好きなんです。フィクションの世界に自分が入っていく事が。映画にももっと出たいと思ったんですけど、映画はチャンスがないと出られないから、ある意味欲求不満だったんです。それがここにきて、色々とやらせて頂いて、本当に『雪子さんの足音』のお話を頂いた時は、今まで私が何十年とやって来た全てのご褒美だと思いました。

浜野:そんな風に言って頂けるなんて、本当に嬉しいです。

吉行:“これだったんだ”って感じで演じました。

 

ーー浜野監督は、男性が多い映画界で女性監督として第一線で長年撮ってこられて、どういうお気持ちだったんですか?

浜野:男ジャパンをぶっ壊す!(笑)男が作り上げて来た日本映画を変える! その戦いの連続でしたね。私が吉行和子という女優さんを尊敬してやまないのは、どんな役を演じられてもその中に“自分自身を生きる女”が存在するからなんです。今の若い女優さんに魅力を感じないのは、男の監督が“女ってこうだろう”と男が考える女性像を演じるからなんですよ。そうじゃないんですね。男に女が本当に理解出来るわけがないんですから。私がピンク映画からスタートしたのも、メジャーの撮影所に入りたくても入社条件の“大卒・男子”の壁に阻まれたからなんです。当時は女性監督なんか全く必要とされていなかった。今は女性監督も多いので、その世代の真の女性像を描いていって欲しいと思いますね。私は、これからも吉行さんと一緒に世の男性があっと驚くような“とんでもないバーサン”を描いていきたいと思っています(笑)。

 

ーー先人の方々が切り拓いてくださったこその、今があるのだと思います。浜野監督は、深作欣二監督とご縁があると聞きましたが。

浜野:女のピンク映画監督を面白がってくださったのか、私のドキュメンタリーを撮りたいって言われたことがあったんです。ビックリして“私はピンク映画の監督ですよ”って言ったら“お前さんがピンクなら、ワシはヤクザや”って(笑)。それで、ピンク映画の現場やアフレコのスタジオなんかにも見学にいらっしゃったりしたんですけど、結局実現はしませんでした。深作監督も残念そうでしたけど、いくら何でも私が被写体ではスポンサーが見つからなかったのかも知れませんね(笑)。

 

ーー貴重なお話ですね。

浜野:深作さんとか、大島(渚)さんとか、男映画を撮っていた監督さんですけど女性監督を差別するようなところが全くなくて、同じ映画監督として対等に接して頂いたのがいい思い出ですね。

 

ーー吉行さんはどうですか?その時代の監督さん達との思い出の出来事を教えて下さい。

吉行:深作さんとはテレビでしたけど何回かご一緒して、とても気分のいい監督さんでしたね。五社(英雄)さんとかもご一緒しましたが、皆さんパワーがあって、凄く元気でしたね。この頃、皆さん元気がなくなっているなって思っていたところに浜野監督に会ったから“ここに居た!”って(笑)私は凄く感動したんですよ。

浜野:当時は、現場で怒鳴りまくっていましたもんね(笑)

吉行:やっぱり、作品を作っていく上では、常軌を逸してないと面白くないんですよ。あまりにも予定調和で、皆で仲良くっていうのは嫌なのよね。

 

ーーその感覚が、映画に映し出されるんですね。お二人が、今後の映画界に望むことを教えて下さい。

吉行:監督さんが、自分の作りたいものを作れる時代になればいいと思います。そうすれば、もっともっと面白くなる。浜野監督は、それが出来てるから凄い。オリジナルとか今は、なかなか出来ないでしょ。

浜野:今まで通り、誰の言う事も聞かず、ワガママ100%で撮りたい映画を撮っていきたいと思いますね。覚悟を決めて撮りたいものを提示すれば、吉行さんは必ず応えてくれるので、これからも浜野映画には無くてはならない女優さんです。

映画「雪子さんの足音」吉行和子さん×浜野佐知監督

 

作品情報

雪子さんの足音

雪子さんの足音

  • 公開日
  • 2019年5月18日より
  • 劇場
  • ユーロスペースほか全国にて順次公開
  • 配給
  • 旦々舎
  • 公式HP
  • https://yukikosan-movie.com/
(C) 2019 株式会社旦々舎

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伊藤さとり(いとう さとり)

映画パーソナリティ。邦画&洋画の記者会見や舞台挨拶を週5回は担当する映画MCであり、年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。
TSUTAYA店内放送「WAVE-C3」で新作DVD紹介のDJ、ケーブルテレビ無料放送チャンネル×ぴあ映画生活×Youtube:動画番組(俳優と対談)「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、雑誌「シネマスクエア」コラム、スターチャンネルで映画紹介他、TV、ラジオ、雑誌、WEBなどで映画紹介のレギュラーを持つ。心理カウンセリングも学んだことから映画で恋愛心理分析や恋愛心理テストも作成。

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