vol.21 映画『ソローキンの見た桜』阿部純子さん×イッセー尾形さん編

映画『ソローキンの見た桜』阿部純子さん×イッセー尾形さん

インタビュー:伊藤さとり
インタビュー日:2019年2月20日(水)

 

ーーお二人は、今回が初めての共演なのですねよね?大先輩のイッセーさんとご一緒されていかがでしたか?

阿部:ずっと共演させて頂きたかったので、嬉しかったです。本当に勉強になりましたし、私がお芝居しやすいようにとイッセーさんが気遣って下さったので、本当に忘れられないシーンになりました。

尾形:ほんのちょこっとしか一緒のシーンが、なかったんだけどね(笑)

 

ーーイッセー尾形さんから役者として吸収出来るポイントはなんですか?

尾形:思い付きでも、嘘でもいいから言って(笑)

阿部:イッセーさんの役作りですね。役に集中されている時の集中力がもの凄くって。役作りされたイメージを俯瞰(ふかん)にして考えてらして、絵に描いていらっしゃったんです。

尾形:そうそう、わりとイラストにするんです。自分がどんな役を演じるのか、よくやるやり方です。

阿部:それを丹念に、監督を交えて皆さんと話されていて、メイクさんと一緒に作り上げていく過程を拝見していたんです。もの凄く丁寧で、映像にも映っているのですが、本当に素晴らしかったです。

尾形:緻密に作っているだろう(笑)ありがとうございます。

 

ーーイッセーさんは、阿部さんという若い女優さんをご覧になって、どんな役者さんだと思われましたか?

尾形:最後の方にワンシーンだけあったんですけど、すっごい飛び込み深くて、集中力が凄くって、こっちが動かされちゃう。“この子の為ならいいか”って(笑)
本当に演技じゃなくて、こっちが動くから自分の台詞が出るみたいな。人を動かす力があると思います。

 

ーーある意味、女優冥利に尽きるというか、大切な事ですよね。

尾形:そうですね。役者にとって一番の力だから。役者って自分は動くけれど、相手役を動かす事はなかなか出来ないことだと思うんで。

 

ーーこの映画を観た時、私は是非、お二人にインタビューをしたいと思ったんです。
それは、海外の方とのコラボレーションで、日本と海外の架け橋になった映画でもあるからです。イッセーさんは『ヤンヤン 夏の想い出』でエドワード・ヤン監督、『沈黙 -サイレンス-』ではマーティン・スコセッシ監督とお仕事をされ、阿部さんは『海を駆ける』ではインドネシアで現地の方ともお仕事をし、海外の方とご一緒する映画も今までご経験があり、まさにそれだと思っています。
イッセー尾形さんは、そもそも井上雅貴監督とお知り合いだったとお聞きしております。

尾形:ロシア映画『太陽』(05)という作品で一緒でした。メイキング監督として参加していたんです。ロシア映画に出演するのは初めてで、あの時は舞い上がっていたから、全然、覚えていないんですけど(笑)その後、井上さんの第一作監督作品である『レミニセンティア』を観て、凄く面白くて。日本の監督が撮ったとは思えないような作品で、まるでロシアにもともとあったオリジナルSF小説を原作にして映画化したんじゃないかと疑うぐらいで、とても面白かったです。それで、お話を頂いたから“是非、是非”って。

 

ーー監督の才能を感じていらしたんですね。阿部さんは、どうでしたか?

阿部:最初は、一人二役、しかもロシア人の方とのお芝居という事で自分に出来るのか、不安でした。

尾形:雲をつかむような話だよね。

阿部:イッセーさんもおっしゃっていましたが、言語の壁を乗り越える緊張感。でも、いい作品を作りたいという気持ちで、どうにかコミュニケーションをとって“いい作品を作っていこう”というチームが出来たので、この作品に参加して一つ大きな自信を持つことも出来ました。本当にありがたいと思っています。

映画『ソローキンの見た桜』

ーー英語でコミュニケーションをとったり?

阿部:片言ですけど(笑)

 

ーー難しいですよね。言葉が壁になるお仕事について、どう思われていますか?

尾形:俺の場合は…、『沈黙 -サイレンス­­­-』(17)の時は、英語を喋る日本人の役だから発音とかアクセントとか、それほど気にしないで大体の意味が通じればいいだろうっていう役どころだったから台詞はきっちり覚えますが、それ以外は何を言っているのかわからない。それがむしろプラスに働くし、全部がわかっちゃうよりはほとんど意味がわからないのがいいのかもしれない。けれど芝居の時は台詞を媒体にして一緒に演じる。世界を作る。終わったらまたバラバラになっちゃう。その儚さ、奇跡に近いような瞬間を大事にしていく。それが外国の人と仕事をする時の一番の楽しみかな。日本人では意味が通じるからね。日本では出来ない事だからこそ楽しい。そんな境地(笑)

映画『ソローキンの見た桜』阿部純子さん×イッセー尾形さん

ーー確かにそうですよね。

阿部:映画で繋がる。映画を通して自分を作る。

尾形:今回の映画もそういうテーマがあるよね。

 

ーー阿部さんは、ロシア人俳優ロデオン・ガリュチェンコさんとの共演が多かったですがどうでしたか?

阿部:やっぱり、一つの作品が出来たからこそ、何だか繋がりが深まったような感覚がしましたが、イッセーさんほどの深みは…。

尾形:図々しくなっただけだよ(笑)

阿部:言葉の壁は、感じる時がありました。やっぱり、表現を通して繋がるって一番深いような気はします。

尾形:ロシアの俳優さんもお互いに不可能かもしれないっていう気持ちは持っている。監督さんもカメラマンさんも全員がその気持ちを持っているし、共有している。それが各シーンを作っている核じゃないかな。お互いに不安をわかっているし、不安じゃない人はいない。それがチームワークになっていたりするんじゃないかな。

 

ーー出来上がりがどうなるか?それが醍醐味かもしれないですね。
脚本を読んだ時と作品の印象は変わりましたか?

尾形:字面だと平面的に読んじゃうから時系列に読んでいく。ここは現代、ここは過去って。映画は映像で説得するから奥行きがあったり、沈黙の居たたまれなさと、どうなるんだろうってスリリングさもあったり、生き物になっていく。それを如実に感じましたね。

阿部:私が特に印象的だったのは、イッセーさんのシーンです。台本の書かれている事以上のシーンというか、クスって笑ってしまうようなシーンになっていました。台本ではもっと厳格な所長だったけれども、イッセーさんが演じるとこんなにもユーモアがあって、観ている人にとって身近に感じられるような存在になるんだなって思いました。私が見られなかったシーンもあったんですが、スタッフさんや皆さんが“凄くいいシーンだった”っておしゃっていたので、そのシーンを映画で観た時は、“こうなっているんだ”って思って、自分が映っていないシーンを含めて凄く面白くて印象深かったです。

尾形:ありがとうございます。考えに考えた演技だったんだ(笑)

 

ーー毎回作品を観る度に思うのですが、イッセーさんの演技はイッセーさんにしか出来ない、まさに唯一無二になりますよね。他の役者さんが演じれば、別のアプローチになると思います。イッセーさんが役を演じる上で、軸になっているものは何ですか?

尾形:この映画は阿部さん演じるゆいとソローキンの恋物語。悲恋になっていくが、これこそが純愛なのかっていうのが芯にありますから、それをどうもっと素晴らしく、お客さんに届けられるかと。そんな時にちょいと小者の所長の方が面白いんですよ(笑)僕が強いと阿部さん演じる「ゆい」と「ソローキン」の交流が拡がらないし、増幅されないんですよ。そんな風に漠然と思っていました。僕と「ソローキン」が恋愛するわけではないけれども、僕らのちょっとしたやり取りや交流の増幅版が「ゆい」と「ソローキン」の関係になればいいなって。

映画『ソローキンの見た桜』

 

ーー一役者としてではなく、一人芝居で物語を作られている方だからこそ、全てを見ているんですね。

尾形:やるからには、豊かにもっともっと面白くしたいですよね。

 

ーーなかなかここまで思っている役者さんっていらっしゃらないと思います。
阿部さんは、先輩役者さんとお仕事されたり、インドネシアに続き、今作ではロシアにも行かれました。このような経験を通して今後どんなアプローチが出来る女優さんになりたいと思いましたか?

阿部:今、イッセーさんのお話を伺って、台本をきちんと読んで役だけでなく映画全体で何が出来るのか?を考えていく事がどの映画のジャンルにおいても、どの国の映画においても大切なんだなって思いました。

尾形:それ、あんまり人に言わない方がいいよ。“俺の仕事だ”って監督が怒るからね(笑)
阿部さんには、きりっとした役、悪女でも切り札を握っている女みたいな役を演じて欲しいね。

 

ーー目に力があって、色んな幅を持っている女優さんだと思います。

尾形:持っているよ。

 

ーーマーティン・スコセッシ監督ともお仕事をされているイッセーさんにお伺いしたいのですが、海外の巨匠と呼ばれる監督に認められる所作は一体何ですか?

尾形:所作…。本当に幸運だよね。エドワード・ヤンさん、アレクサンドル・ソクーロフさん、マーティン・スコセッシさん、凄い人達だよね。

 

ーーそうなんです。そこまで愛されるには、演技はもちろん、イッセーさんの人間力も絶対にあると思うんです。

尾形:自分が自慢できるのは、お芝居を長年やって来た事。人を作る。男であろうが、女であろうが、若者だろうが、老人だろうが。まあ、大金持ちは演じられないんですけど、知らないから(笑)その事だけは、自慢できます。人を作ってきた事は、何十年も真摯にやって来たなと。それは、自負しています。

 

ーー監督といち俳優というよりクリエイターとして向き合っているって事ですね。

尾形:向こうの人が、本当にクリエイター。僕の演技をスコセッシさんは、デザインって言ったの。“今回の演技のデザインは、全部尾形がやったんだ”って。“あ!俺、デザイナーなんだ”って、そういう発想ってないじゃない。演技、芝居とは言うけど。“デザイン”、ちょっとカッコいいじゃない。横文字だし(笑)

 

ーー俳優としても、自分たちの意思を持って、色々な演技プランを考えて欲しいと言う事ですよね。

尾形:そうだね。向こうの人は、プランを持って当たり前ってところがあるみたい。

 

ーー阿部さんは、今後どんな作品に出演してみたいですか?

阿部:ご一緒出来るならご一緒したい監督ですが、なかなか難しいと思っていますし。
“デザイン”という感覚が、今まで無かったことなので。

尾形:そうだよね。“デザイン”って自分から離れた言葉だよね。心情的に“演じた”ではなくって。ちょっと突き放したところで見る、クールな感じだよね。

 

ーーイッセーさんから見て、阿部さんが今後、世界の監督さんとお仕事をする為に、どんな事をすればいいと思いますか?

尾形:まず、演じてみせる事!カメラテストとか、オーディションがあると思うから。
僕もスコセッシさんの時はそうだった。ビデオオーディションがあって、そういう時に目力を使って訴えて。役とか関係なく、自分自身がこの先コンタクトするんだって気持ちがあるといいと思う。こんな事、言っていいのかな?(笑)
俺の場合は、目力が無かったから“こんな人物です”って、井上の役はニカニカしているイメージあったからそれ一本を通したけど。その役のイメージプラス、“この役をやりたい”っていう気持ちがメッセージで伝わればいいんじゃないかな。
それで切られたら、おしまい。向こうのイメージに合わなかっただけだから。

 

ーー阿部さんは、演じてみたい役とかありますか?

阿部:実は、かつてあった映画の女性バージョンをやってみたいと言うのがあります。今村昌平監督の『うなぎ』の女性版。

 

ーーいいですね!ちなみに阿部さんが影響された作品は何ですが?

阿部:海外の作品だと『ブラック・スワン』。ナタリー・ポートマンの危うい感じというか、真剣に何かに打ち込んだ時に落ちてしまいそうな感覚、その表裏一体のお芝居がもの凄く印象に残っています。

尾形:そうゆう作品に決まったら、僕も出演させて下さい!あとそうだな、純文学が阿部さんには似合うと思うね。

阿部:あっ、ありました!『二十四の瞳』の先生役、やってみたいです。

映画『ソローキンの見た桜』阿部純子さん×イッセー尾形さん

ーーイッセーさんが惹かれる作品、出演したい作品ってなんですか?

尾形:ミステリー。

阿部:どんな役を演じられたいんですか?

尾形:探偵でも、犯人でも、刑事でも、目撃者でも、何でもいいです(笑)

 

ーー最後にどんな人たちにこの映画を観て欲しいかを含めメッセージをお願いします。

阿部:私もこの映画を通して、昔の女性像と今の女性像がいかに違うのかを感じたんです。今の女性は自分の生き方や恋愛において選択する自由がある時代だと思っていて、特に“どうやって生きたらいいだろう”と悩んでいる方にも観て頂きたいです。昔は家族や規則に縛られて、なかなか自由に生きられなかった女性が居る。今はそうではないから。“自由でいいんだ”っていう風に私も感じたので、そういった風に感じて頂きたいですね。

尾形:収容所があったのは史実です。この恋物語はドラマなんですけれども、史実(事実)から入ってドラマを潜り抜けて、もう一度史実(事実)に戻る。そういう大きなサイクルを観ていくんです。そうするとドラマの力っていうのは、通り一遍の事実を自分の中まで入れてくれる。そういう大きな役割があることをまさしく収容所という日本が誇れる経験をしたと思うんです。忘れているけれども寛容さ、中では色々とあったけれどもそこを選択した。だからこそ辛い目にあう人もいるんですが、大きくは塀の無い収容所、条約を守ったとはいえ、それを選んだ事は自慢していい。誇りがあるんですよ。これと和歌山県でトルコの船を助けた事(エルトゥールル号の遭難事故)の二つは日本の美徳。子供の頃から誇りに思っている事なんです。その正体が現れている。凄く大事な映画になりましたね。

映画『ソローキンの見た桜』阿部純子さん×イッセー尾形さん

 

作品情報

ソローキンの見た桜

ソローキンの見た桜

  • 公開日
  • 2019年3月22日より
  • 劇場
  • 角川シネマ有楽町ほか全国にて
  • 配給
  • KADOKAWA
  • 公式HP
  • https://sorokin-movie.com/
(C) 2019「ソローキンの見た桜」製作委員会

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伊藤さとり(いとう さとり)

映画パーソナリティ。邦画&洋画の記者会見や舞台挨拶を週5回は担当する映画MCであり、年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。
TSUTAYA店内放送「WAVE-C3」で新作DVD紹介のDJ、ケーブルテレビ無料放送チャンネル×ぴあ映画生活×Youtube:動画番組(俳優と対談)「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、雑誌「シネマスクエア」コラム、スターチャンネルで映画紹介他、TV、ラジオ、雑誌、WEBなどで映画紹介のレギュラーを持つ。心理カウンセリングも学んだことから映画で恋愛心理分析や恋愛心理テストも作成。

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