vol.12 映画「あいあい傘」宅間孝行監督×市原隼人さん」編

あいあい傘

インタビュー:伊藤さとり
インタビュー日:2018年10月22日(月)

 

――市原さんが演じられている「雨宮清太郎」の役は、舞台では宅間監督ご自身が演じられていますね。キャスティングにこだわりがあったのではないですか?

宅間:自分が演じていたから、こだわりがあるというわけではないんですが(笑)どの役もこだわりがあります。でも、「清太郎」を演じられる役者ってそんなにいないんですよ。何名か候補が上がっていたのですが、“ちょっと、違うんじゃないかな?”って思っていて(笑)そんな時に隼人君の演技を見て、“清太郎は隼人君がいい”って思ったんです。それで、ちょっとハードルが高いかもしれないけどダメもとでオファーをしたんです。そしたらOKだったんで嬉しかったですね。

 

――凄くハマっていたので、最初から決めていたのかと思っていました。

宅間:僕は基本的には“この人に演じて欲しい”とか自分からは言わないですね。“どっちがいいですか?”って意見を求められたら“こっち”とは言うけど。やっぱり、ビジネス的な責任を負うのはプロデューサーなんで、キャスティングには口を出さないようにしています。なので、今回の提案は珍しいパターンです(笑)

 

――市原さんは、「清太郎」を演じる事になってどう思われましたか?

市原:演じる人によって、まったく変わる、どんな人にもなる役だと思いました。だからこそ、どうすればいいのかなっていうのが第一印象で。それが凄く楽しみでしたね。
どういう演じ方でも成立する役だと思うんです。そんな中で、自分だったらどうするかな?って考えた時に思いっきり遊んでみようと思ったら凄く楽しくなりました。

 

――最初から凄くチャーミングで、ずっと魅せられていて。衣装など、ご自分でアイデアを出されたりしたのですか?

市原:結構、自由にさせて頂きました(笑)

宅間:市原君は、“こういう事ですよね”って言って、髪型、全部作って来ちゃったんです(笑)

市原:(笑)現場は凄く楽しかったです。ずっと前から知っていたかのようなファミリー感が凄くあって現場に行くのが、本当に楽しみでした。宅間さんが色んな事を受け止めて下さるので。受け止める事って勇気がいることだし、力も必要で、作っているのは役者だけでなく、色んな技術者が集まっていて、僕はその中のほんの一部なんです。そんな中で、役者の想いや芝居をくんでくれるので、本当に肩の力が抜けて、この空気感が出来たのかなって思います。

宅間:本当に仲が良かったよね。

あいあい傘

――映画を観ていても、やべきょうすけさんと昔からバディだったような、その匂いさえも感じる楽しさでした。そのシーンを観るだけでもコメディ感があって、役者同士が醸し出す雰囲気はどうやって作っていったのだろうかと思っていました。

市原:やべさんも凄くやさしくて、温かい包容力のある方で、何でも許してくれる人なんです。だからこそ、何でもやってみようかなって思えました。立川談春さんにも、あるシーンの流れで役になりきって、つい頭をひっぱたいてしまったんですけど終わった時に“本当にすいません”って謝りにいって“全然、大丈夫だよ”って言ってもらえて良かったです。

宅間:あの時の談春さん、役じゃなく談春さん本人に戻ってたよね(笑)

 

――アドリブだったんですね。

宅間:そうですね。芝居の流れの中で生まれたものですね。台詞を含め、やらなければいけない事は決まっていたので、それだけ守ってもらえれば、あとは自由っていうか、生々しい関係性を見せてもらえればいいかなって思っていました。

市原:ワンシーンワンカットの撮影で、毎回違うんですよ。なかなか無いじゃないですか、そんな事。凄く勇気がいる事だと思うんですよ。撮影が始まる前は、皆でどうしようどうしようって考える時間もありましたし。頭で考えるだけじゃなく、実際に動いて動いて、ちょっと舞台のような感じでした。それって役者にとって、凄く贅沢な事なんです。切られないから、凄く遊べるんですよ。それが楽しみで、今度は何をしようかなって、やればやるほど色んなものが生まれて来ますし、その中で迷子になってしまう事もあるかもしれないけど、出来上がりを観ると凄くいい空気感で。この作品にしかない、空気感が出来ているので、本当にビックリしました。

あいあい傘

――だから一つ一つのシーンが活き活きとしているのですね。宅間監督は、役者達にそれぞれのキャラクターを身体に染み込ませてもらい、動いてもらう事を大切にされているのですね。

宅間:そうです。そこだけちゃんとしてもらえれば、何してもいいというか。最初と最後だけ、行くところを間違わなければ、多少脱線してもらってもかまわないです。そっちの方が本当なんで(笑)多少、甘嚙みぐらいしてくれている方が生々しい。

市原:それ使っちゃうんだって思いました(笑)

 

――とてもチャーミングでした(笑)監督の演出だからこそ生まれたシーンなんですね。
市原さんが感じる宅間監督の演出の面白さって何ですか?

市原:とにかく人間ぽくいられる事。“こうしないといけない”っていう義務感よりも、“こうしたい”って思わせてくれる現場が常にある。預けて頂けることも嬉しいですし、本当になかなか無い空気感の現場でしたね。

 

――清太郎役を体に入れる時って何を意識されたんですか?

市原:何をしても憎まれない。アイツ可愛いなって思われるような、地域に一人、友達に一人居たら面白くって、何でも話せる存在で、肩が抜けるような、アイツが居るから俺は大丈夫って思える、そんな泥臭い人間になればいいなって思って演じました。わかりやすく言えば「寅さん」ですよね。宅間さんにも「寅さん」みたいな感じがいいって言われたのを覚えていて。僕が捉える「寅さん」と宅間さんの捉える「寅さん」は一緒なのかなって思いながら、愚直に真っ直ぐに行き過ぎるほどのパワーが欲しかったです。自分が演じる事によってそのパンチになれたらいいなって思っていました。とにかく作品のパワーになればいいなって思いながら動いて動いて凄い距離を全力で走ってました(笑)

宅間:映像で観ていると残念ながらその距離間をあまり感じないんだけど、現場に行くと凄い距離を走っているから、結構やっているよね(笑)やっている一つ一つの事に全力疾走している感じが、アホであり、真っ直ぐであり、それを直感的に感じで演じている姿が現場で面白くって。現場の皆が「清太郎」がやってるのを見て笑ってて(笑)やらされている感がなくって、ガチでやっているのが凄く似合う。

あいあい傘

 

――だからこそ、息切れしている姿がリアルなんですね。
さっき、お話の中に「寅さん」というのが出て来ましたが、“それだ!”って思いました。この映画は懐かしいのに新しい。人情っていう言葉がピッタリはまる映画だと思います。
「寅さん=清太郎」というのは、いつ頃イメージしたのですか?

宅間:全然「寅さん」なんで(笑)僕が作る作品は、どれも基本的に演じているキャラクターが「寅さん」なんですよ。テキ屋をやっているのもそうだし、すぐに女の子に惚れちゃうのもそうだし…、親父の名前が「トラゾウ」なんです(笑)。隼人君も言ってましたが隼人君が想う「寅さん」と俺が想う「寅さん」は微妙に違うだろうし、それも含めて、共通言語としてあったキャラクターです。渥美清さんの「寅さん」、山田洋次監督の「寅さん」、隼人君が考える「寅さん」、そして僕が考える「寅さん」があって、それぞれが考える「寅さん」像ってあると思うんです。それは似て非なるものかもしれないけど、根っこにあるスピリット的なものは同じだと思っています。

あいあい傘

 

――宅間監督自身が「寅さん」のような男性に憧れを持っているのですか?

宅間:以前、山田洋次監督とお話させて頂く機会があって、その時“「寅さん」が好きで”って伝えたら“でも、アイツ(寅さん)は、最低だからね”って言われて(笑)本当にあんなに面倒な人はいないし、キャラクターに関しては本当に最低だし(笑)周りに居ると面倒くさいけど、傍から見ると面白い人なんで、キャラクターとしては本当に魅力的だと思います。カッコつけのナルシストだしね。

 

――市原さんは、熱い男である清太郎がピッタリと言われて、どう思いますか?

市原:嬉しいです。何がピッタリなのか?演じている時は、よくわからなくて(笑)演じている最中は、とにかく人間臭く。小学校の頃の景色って凄く綺麗じゃないですか、コップの一つを見ても“綺麗だな”って思う。でも、大人になって見ると“こんなものか”って。“こんなものか”って思う前の子供の頃のような真っ直ぐなピュアな気持ち、学校からの帰り道でさえもワクワクしながら楽しめるような10代の頃の気持ちで演じてみようっていう想いが最初からあったんです。あの空気感は、(倉科)カナちゃん達共演者と作り出したもので、一人でも違っていたら全く違うものになっていたと思います。キャストの皆とも話していたのですが、本当に優しい人しか集まってないよねって(笑)皆が色々な優しさを持っているんです。難しいですよね、ご縁っていうのは、相手を想うからこそ、すれ違ってしまう時もあるし。

あいあい傘

 

――これまで市原さんの演じる姿を見てきて、私はここまで熱い男をピュアに自然体で演じられる役者さんはいないと思っていますが。

市原:熱さってよくわからないです(笑)周りから“熱いよね”ってよく言われるんですが、自分の何を見て“熱い”って言っているのか考えるんですが、よくわからないんですよね。逆に哀しく感じる時があります。そんなに冷めているのか?世間はって。
これだけ、役者をやらせて頂いて、現場にも参加させて頂いて、自分を使って頂ける作品があって、凄くありがたい事です。それと同時にもっと頑張らないといけないし、努力の時間も必要だと思っています。以前、地元の幼馴染に”現場に行きたくない”って言ったことがあって、その時に”それは、贅沢な悩みだよ。飯も食えなくって、住む所も無くって、やりたい事が出来ない人はいっぱい居る。やりたい事が出来ているお前は、凄く贅沢だよ”って言われたんです。そうだ、やりたい事が出来てるんだ。どうせなら、自分だけしか出来ない道を歩いて行きたいし、それが遠回りでも近道でも。だけど、それをずっとやっていると”熱いね”って言われる。全く理解出来ないんですよね。“熱さって何だ?周りが冷めてるのか?”って(笑)

宅間・伊藤:(笑)

市原:生活の為に仕事はしてないし。趣味なんだけどビジネス、難しいところですね。でも、生活の為っていうのが前に出たら、すぐに落ちていく世界だと思うんです。職人でいないといけない。凄く矛盾している世界だと思うんですけど。僕は出来るだけ、職人でいたい、趣味であって欲しい。

 

――好きな事をやっているって、そういう事なんですよね。
この仕事を続ける醍醐味というか続けようと思う理由などを教えて下さい。

宅間:深く考えた事はないんですが。この世界に居る人って現状に満足している人って居なくてもっともっと上を目指すんです。もっといい作品を作りたい、いい作品に関わりたいって。そこしかないので、永遠に追われている感じがしますよね。ゴールがないので、そういう意味では、ホッとする時がない。一本出来たら、もう一本作りたくなるし、ひたすらいい仕事をしたいって思っています。金は欲しいんですけど、金儲けの為にやっている訳ではないので。ただビジネスとして成立しないと次はない、非常に難しいです。ビジネスに関係なく、思いのまま突っ走って、結果的にビジネスの上でも大成功するって事に憧れています(笑)
好きな事だけやって、気付いたらお金持ちになっていたっていうのが理想です(笑)

市原:人間は、どんな時でも我慢していると思うんです。唯一芝居をしている時だけが、全部さらけ出せる。セーブしなくていい、妄想もそうだし、自分の思想も行動も、そのリミッターを外せるって事が自分としては、凄く面白い。
あと一番最後の根源である、お客様に観て頂いて、お客様のものにして頂く事。自分が動いたお芝居とか、物語とか、携わった作品がお客様の経験となって、家に持って帰った時にいつまでも、その想いを子供の様に大切にして頂ける。そして、その経験によって見たお客様の普段の生活が、いつもとは違う感覚や感情になって、人生をより楽しむ事が出来るように後押しが出来たら嬉しいなって思います。

 

作品情報

あいあい傘

あいあい傘

  • 公開日
  • 2018年10月26日より
  • 劇場
  • TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて
  • 配給
  • S・D・P
  • 公式HP
  • http://aiai-gasa.com/
(C) 2018映画「あいあい傘」製作委員会

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伊藤さとり(いとう さとり)

映画パーソナリティ。邦画&洋画の記者会見や舞台挨拶を週5回は担当する映画MCであり、年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。
TSUTAYA店内放送「WAVE-C3」で新作DVD紹介のDJ、ケーブルテレビ無料放送チャンネル×ぴあ映画生活×Youtube:動画番組(俳優と対談)「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、雑誌「シネマスクエア」コラム、スターチャンネルで映画紹介他、TV、ラジオ、雑誌、WEBなどで映画紹介のレギュラーを持つ。心理カウンセリングも学んだことから映画で恋愛心理分析や恋愛心理テストも作成。

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