vol.9 映画「若おかみは小学生!」映画:高坂希太郎監督、TV:増原光幸監督 編

インタビュー:伊藤さとり
インタビュー日:2018年8月31日(金)

 

ーー作品、すごく面白くてしかも泣けて。原作は、児童小説だったんですよね。その作品を映画は大人向けというか、メランコリックな成長物語として作り上げられていますよね。
この作品を受けようと思った理由は、なんですか?

高坂:僕が描いたイメージボードを講談社の方が気に入って下さって、映画を作りたいという話をふられたんです。ちょうど仕事の合間もあったので、久しぶりに監督をしてみようかなって思ったんです。そんな、流れで決めたところがありますね。

 

ーー原作を読まれた感想は、いかがでしたか?

高坂:最初は、すごく抵抗感があったんです。小さな女の子向けの子供の児童小説って身近になかったし、そういう仕事もしてこなかったので。出来ると思わなかったんです。でも、読んだら原作のテイストが、大人が見ても堪えうるように工夫されていて、濃密な内容だったので、やったら面白いだろうなって思いました。

ーーテレビアニメ版を監督された増原監督は、どうでしたか?

増原:原作を読んだ印象としては、幽霊が登場しますが、日常世界を描いたお話で、来るお客さんに対して主人公のおっこちゃんが、接客していく中で色んな事を見つけていく成長物語でもあるので、テッパンの児童文学っていうか“いいお話”が多かったので、やったら楽しそうだと思いました。

 

ーー映画版とテレビ版は、似て非なりなものという感覚を持ちました。お互いの作品をご覧になってどう感じましたか?

高坂:真ん中に原作がある感じかな(笑)

増原:確かに(笑)

高坂:原作を中心に、よりコメディにドタバタなテイストを強調したのがテレビシリーズ。
よりシリアスな部分をピックアップしたのが劇場版かな。

増原:そうですね。テレビのシリーズ構成のコンセプトとしては“日曜の朝に子供が観る元気になるアニメ”。観た後に元気になってくれればいいなっていうのが一番にありました。おっこちゃんって、いきなり両親が亡くなるっていう重い話じゃないですか。劇場版では、その部分を掘り下げて真面目に描くっていう話を聞いていたんです。なので、テレビシリーズでは、おっこちゃんの両親の死に対する思いとか重い運命の話は劇場版に預けることにして、それを踏まえた上で、とにかく第一話のラストは明るく終わりたいっていうのをコンセプトにして作りました。

ーー凄く納得です。私は、映画を先に観ていたので映画の壮絶なシーンに“ウオー”っと涙が溢れ、その後テレビシリーズを観て、その部分を知っているからこそ、ストーリーにすっと入れました。でも、お子様向けと考えると確かに。

高坂:視聴対象とOAする時間帯って重要ですよね。
1巻から20巻まである原作をどう1つの映画にしようかって思案した結果、原作ではあえて触れなかった重い部分、オミットしている部分を大人も観る映画ならリアルに描いてもいいかなって思って作ったものがオリジナル部分です。

 

ーーだから大人の私たちが、その部分があることで感情移入しやすくなり、うちの娘がテレビアニメを観て見事にハマった。つまり、お二人の作品が見事にターゲットの心を掴んでいるってことですね。
増原監督は、高坂監督が劇場版を担当されると聞いた時、どう思われたんですか?

増原:大体のアニメは、テレビシリーズから劇場版がスペシャルとして作られることが多いんですよ。今回は、監督が二人同時に立って、正確には三人なんですけど。ここにはいないのですが、高坂さんの自転車仲間である谷東監督がいまして(笑)

住み分けっていうか、同じようなテーマを同じ監督がやったら、多少の切り口が違うだけなんです。なので、スタンスを完全に分けようと思って、僕はテレビシリーズの作業に入る前に高坂さんの絵コンテを見なかったんです。見たらガンガンに影響されると思っていたので(笑)。なので、試写会の後に見ました(笑)。

 

ーー脚本も読んでなかったのですか?

増原:脚本は読みました。劇場版でやっている部分、掘り下げるテーマが、かぶっちゃうと面白くないので。

本に関しては、コンセプトの違いがあるので、おのずと違いがありました。中身に関しては、ファーストインパクトとして強烈で素晴らしいコンテがたくさんありまして(笑)なので、ダブらせるというか、おっこちゃんが最初に旅館『春の屋』に来る坂道のシーンは、同じようなアングルになってます(笑)

 

ーー偶然に?

増原:絵コンテ、そこだけ見ちゃったんです(笑)見ちゃったから、ダブったんです。

高坂:上がっている作品(テレビシリーズ)は、随時見ています。それで、“これ、パクられてるよ”って言った覚えがあります(笑)

増原:たまたまですよ(笑)

高坂:美術設定は、一緒ですからね(笑)

増原:劇場とテレビで舞台となる『春の屋』の構造が、まったく違うと観ているお客様がビックリしちゃうので、合わせようってことになっていて。劇場版で既に作成して頂いていたものをまるっと頂くって感じで、合わせたんです(笑)

高坂:同じ原作を扱っているので、共有出来るものは共有したほうがいいですよね(笑)

増原:有馬に行きたかったなあ。

高坂:原作者の令丈さんが、有馬温泉がモデルとおっしゃっていたので、取材で有馬温泉に行きました。世界観も有馬温泉を想定して、絵コンテを書きました。

増原:僕は行けなかったんですよ。劇場班の方々が、いっぱい撮って来てくれた資料を見ながら作業しました。でも、プロデューサーの運転で修善寺には行きました(笑)

高坂:テレビ班は、修善寺(笑)プロデューサーは、有馬温泉も修善寺も両方行ってるんです(笑)

 

ーー絵は、原作の挿絵(亜沙美さん)の絵に合わせたのですか?

増原:現場の動きの体制としては、劇場班とテレビシリーズ班は完全に同時進行だったんです。スタッフも完全に分けていたんです。キャラクターデザインも劇場版とテレビシリーズ版では若干違うんですよ。さっき高坂さんがおっしゃったように真ん中に原作を置いている形で、寄せているみたいな感じですね。

高坂:あえて言うなら、僕ら劇場版の絵は原作の後半の絵をモチーフにしてキャラクターを作っていて、テレビシリーズは前期の絵をモチーフにしたのかな。等身も違うので。

増原:劇場版は、20巻までのウリ坊たちとの別れとか、そこの部分を総括して描かれています。テレビシリーズは、原作の前半部分(お客さんへの接客やラブストーリー)を描いているんです。主人公のおっこちゃんが小学6年生なので、観ている人も小学4年生から6年生が多いと思うんですよ。女の子ってわりとおませさんなんで、恋バナは絶対に外せないだろうって、初々しい初恋話は絶対に入れないといけないって事で、テレビシリーズでは、ウリケンとグローリーさんの話はシリーズの中でも尺をさいているんです。

ーー劇場版とテレビシリーズでは、焦点を当てているところが違うんですね。

高坂:そうですね。劇場版は、最初から最後まで、おっこの成長を描いていくので、登場するお客さんにもそれぞれ役割を与えています。最初のお客さんである“あかね”は今のおっこ、占い師である“グローリーさん”は未来のおっこみたいな位置づけで描いています。そして、最後に登場する男の子は、過去のおっこをイメージしていて、それぞれがおっこの成長を見守っていく流れです。

 

ーー挿絵がある原作や漫画をアニメ化する時に注意していることは何ですか?

増原:挿絵に関しては、出て来るお料理などは要所要所で原作に書いてあるレシピや挿絵を忠実に再現しています。あと、小説原作ものに関しては、台詞ではない、ト書きの部分(心の言葉など)をどう表現すればいいのか、アニメに置き換える部分で悩みますね。行間や文章をそのまま映像にすることは出来ないので、でも原作のテイストや演出で表現している意図をちゃんとアニメで再現したいし、再現することを大事にしたいと思っています。

高坂:絵も文字もその世界観を伝える大切な情報なので、なるべく原作の挿絵も文章も含めて再現するつもりで捉え、描いていました。挿絵は文字だけでは伝わらない部分も伝わってくるので。なるべく亜沙美さんの絵は大事にしたし、文字でしか伝わらないものも工夫したつもりです。

 

ーー絵からイメージするものって大きいですよね。

増原:映像化する上で原作の台詞とか文章表現って、言葉じゃなくって芝居で表現するのってテレビシリーズだと作画上の制約が結構あるんです。でも劇場版のアニメーションは、瞬きするのがもったいないくらい凄いんですよ。言葉じゃなくって、身振り手振りで表現している。抽象化されてるがゆえにイメージが広がる、想像させてくれる。劇場版はヤバいです(笑)予告編を観ただけで“これ、観たい!”って思う。

ーー予告編だけで泣けてしまう!

高坂:台詞はなるべく削るようにしました。やっぱり、動きで表現させたいなって思ったし、台詞だと長くなるんですよ。どうしても芝居が止まっちゃう傾向があるので。だから、グローリーさんのところも精神科医のように、精神科医って患者さんに対して相づちを打つ、オウム返しするとわりと語ってくれるという話を聞いたので、おっこは最初、暗幕を頭にかぶってちょっと形を真似るところから入って、グローリーさんがやったようにおっこが真似をしてみたりとか、懐に飛び込むところとかは、小学生(子供)の特権だと思うんですよ。子供がやると無防備に受け入れるじゃないですか、スキンシップのシーンは意識的に作りました。“私もやります”って言うお風呂に入るシーンでは、原作者から髪の毛をつけるのはルール違反だから台詞を変更して下さいって言われたんですが、そこはガンとして譲らなかったんです。こだわりです。

 

ーー私、気になりませんでした。確かにそうですね、本当なら温泉は髪の毛を上げないといけないんですよね。

高坂:テレビシリーズは、髪の毛を上げているんですよね。

増原:そうだ!上げていましたね(笑)劇場版、観ていても全然気になりませんでした。テレビでは、しつこく髪上げていましたけど(笑)

高坂:やっぱりあの時のグローリーさんは感傷的になっているから、髪を上げてお風呂に入るという、何か冷静さの様なものは表出させたくなかった。

増原:前後の流れがありますよね。テレビシリーズでは、あのシーンの前に時間経過のカット、ワンクッションがあるんですよ。

 

ーー高坂監督の前作『茄子 アンダルシアの夏』も台詞が少なかった印象があります。

高坂:確か大泉洋さん、台詞が2分しかなかったと思います。

増原:2分?

 

ーー私は、あの映画を観て“自転車ってこんなにもドラマティックなんだ”と思いました。

高坂:スポーツは、そういうとこありますよね、人生の縮図みたいな面が。

 

ーーお二人がアニメで表現する上で大切にしている事はなんですか?

増原:アニメに限ったことではないと思うのですが、僕の基本的なスタンスとしてはエンターテイメントであるという事が前提にあって、その上でテーマ性を掘り下げていく。お客さんを説教するようなアニメは嫌だなって。問いかけとか、提示とか、こうゆうテーマってどうなんですか?っていうのがある。エンターテイメントだけだと中身が物足りないと思っちゃうので。

高坂:大事ですよ、飽きさせないことは。本当に苦労しましたよね。和室って地味だし、そこでの会話劇って退屈だろうなって思うから。退屈しないように、地味にしないように視覚的な工夫をしました。

増原:劇場版での鯉のぼりを追いかけるシーンとか、まさにそうですよね。劇場版ならではと思いました。

高坂:おっこの部屋をグルグル回したり、ばあちゃんが悲鳴を聞いて駆けつけた部屋が普通の部屋ではつまらないのでカーテンを閉めて暗くして「何があった?」と興味を引くようにしたり。

増原:絵作りですね。劇場版90分、立ったままでも観ていられる。

一同:(笑)

高坂:あの時は、席がなかったからね。

増原:試写会で僕と高坂さん、席がなかったんですよ。満席で。だから二人で立って観てました(笑)

ーーこの業界に入るきっかけのアニメ、リスペクトしている作品とかありますか?

増原:「美少女戦士セーラームーン」「新世紀エヴァンゲリオン」「王立宇宙軍オネアミスの翼」ですね。

 

ーージャンルがバラバラですが最高です!

増原:学生の頃に「セーラームーン」と「エヴァンゲリオン」が流行っていたんです。「セーラームーン」の方はエンタメ性ですね。時々いい話を挟んで来るんですよ。それで、こうゆうメディアがあるんだって事を知りました。「エヴァンゲリオン」は“テレビでこういうのやっていいんだ!”っていう衝撃ですね。「国立宇宙軍」は間接的ですがこの世界に入るきっかけを作った作品です。この作品が大好きな後輩が居て、寮でずっと24時間流しているんですよ(笑)それで、確か21歳ぐらいの頃かな、エンディングのテロップが流れていて、そこでこういう仕事をしている人たちの存在を知ったんです。それから“これ、やってみよう”って。

純粋に子供の頃に見ていた作品は、中学の時はロボットアニメが大好きで「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」。ロボット出て来るだけで、大好きなんで(笑)後は、「メイプルタウン物語」。子供向けのアニメってそれまでは、三バカトリオがテッパンだったんですよ。このアニメの悪役は知能がある普通の人たちなんです。子供騙しじゃない、ちょっと変わったテイストがありまして、動物の子供たちが日々過ごす話なんですが、こころ温まる話をチョイチョイ挟んで来るので楽しみにしてましたね。

高坂:僕は「宇宙戦艦ヤマト」ですね。“地球絶滅まで、あと何日”っていう、あの独特の緊張感が(笑)当時「ノストラダムスの大予言」のブームがあったので、身につまされるっていうか。当時は今じゃ考えられないような緊張感がありましたね。それに、飛びぬけたSF感だったし(笑)、アニメーションを楽しむきっかけになった作品ですね。それからアニメーションに興味が生まれて、色々と見ていく中で出会ったのが「未来少年コナン」でした。これが飛びぬけていて表現力も含めビックリしましたね。絵は昔から描いていたので“これしかない”って思いもあって、高校生の途中から夏休みの間を利用してアニメーションスタジオで仕事をさせてもらったんです。最初の仕事は「銀河鉄道999」ですね。そのまま、大学には行かないでそのスタジオに就職したんです。そのスタジオが「アルプスの少女ハイジ」や「ルパン三世」など宮崎駿さんと一緒にやっているスタジオでもあったので、ここがいいかなって(笑)

 

ーーそれでは素晴らしいアニメに沢山関わっていらっしゃった高坂監督がアニメーション作りで大切にしている事を教えて下さい。

高坂:人がイメージするものの半歩、一歩先を行く表現力を日々鍛錬で描いていかないといけないなって意識していますね。日常の風景から色んなものを見て、感じることが大事かなと。

増原:劇場版を観て思ったのですが、おっこの子供の仕草の表現が、めちゃめちゃ子供子供していて凄いって思いました。あの表現は、原作にもシナリオにもないオリジナルですよね。本当に素晴らしくて凄いです。

 

ーー確かに両親のお布団のところなど、子供は、あんなことしますよね。

高坂:そういうシーンが上手く入り込めるように、色んなものを引出しの中に用意しておく事が大事だと思っています。共同作業なのでダメ出しもいっぱいあるんですよ。そんな時にポンポンと次々とアイデアを出せるように、そういうスタンスでいたいと思っています。

 

ーーお二人のお話を聞いていたら、また作品を観たくなりました。

 

 

『若おかみは小学生!』
公開日:2018年9月21日より
劇場:TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて
配給:ギャガ
公式サイト:https://www.waka-okami.jp/movie/
(C) 令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

▼作品ページ
https://cinema.co.jp/title/detail?id=82634

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伊藤さとり(いとう さとり)

映画パーソナリティ。邦画&洋画の記者会見や舞台挨拶を週5回は担当する映画MCであり、年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。
TSUTAYA店内放送「WAVE-C3」で新作DVD紹介のDJ、ケーブルテレビ無料放送チャンネル×ぴあ映画生活×Youtube:動画番組(俳優と対談)「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、雑誌「シネマスクエア」コラム、スターチャンネルで映画紹介他、TV、ラジオ、雑誌、WEBなどで映画紹介のレギュラーを持つ。心理カウンセリングも学んだことから映画で恋愛心理分析や恋愛心理テストも作成。

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