vol.62 『ごっこ』熊澤尚人監督インタビュー

ごっこ

8年越し

このシネマコラムを書き始めて良かったことのひとつ。

映画監督さんにじっくりお話を聴ける。

局アナ時代は俳優さんを中心にインタビューすることが多く、しかも伺うことはエンタメ的な内容が多かった。それは、別に悪いことではなくて、メディアによって必要とされるものが違うということ。

私はミーハーだし、俳優さんにお話を伺う貴重な機会をいただけて、昔も今もものすごく幸せですが、一方で、映画好きとしては、やっぱり作り手のお話を伺って、それを発信したい。

今回は『君に届け』のインタビュー以来、8年ぶりにお会いする熊澤尚人監督。前述のように、当時は主演の多部未華子さん、三浦春馬さんにお話しを聴くという使命があったため、監督にはじっくりお話を伺えませんでした。

続けるというのは本当に大切なことで、合同取材ではありますが、8年越しの願いが叶いました。

 

ジュニアさんはワンテイク

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――原作のあるものを実写化する上で大切にしたことは?

熊澤監督:原作は漫画表現に長けているというか、すごくポップなんですよね。アート的でもある。そのポップ感とは真逆に、題材は社会の闇(年金不正受給、児童虐待)を取り入れていて、唯一無二な作品。社会的な部分というのは、本当は映画が一番得意な部分で、そこを映画の王道のストレートな形で人間ドラマとして描きたいと思いました。でもポップ感を描くのは実写映画は一番不得意で、あまりフィットしない。生の人間の息づかいとはシンクロしないと思ったので、お話自体もマイナーチェンジさせてもらったし、テイストもより映画らしく描きました。

商店街で暮らす二人、商店街の人々との関係というのは原作には無いと思うんですが、映画では実は根底に流れているものなんです。原作でもそうでうすが、主人公はあまりうまく生きられない人間じゃないですか。そういう人間に対して社会が寛容では無くなっている気がするんですね。本来、寛容な社会であればそういう人間もうまく生きられるわけじゃないですか。だから、そういうひとつの話を作りたかった。

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僕のデビュー作である「ニライカナイからの手紙」は沖縄の竹富島を舞台にオリジナルで話を考えたのですが、寛容なんですよね。ダメな人間に対しても役割を与えられる社会というのが、本当はあるべきいい姿だよね、という。それを知っていた中で、今回の主人公がうまく生きられないなりに、努力する、そのことによって、前に進めたり、人間的に成長するという話を僕はやりたいなと思って話を考えました。原作が持っているテーマを成長させていったというか、アレンジした部分ですね。

漫画の心臓部分を変えずに実写化するときに大切なのは、原作は素敵なビジュアルが出来ているんですが、ビジュアルだとか形が大切ではなくて、原作者がやりたかったテーマだとか思いみたいなものを、実写だとこうなりますよね、みたいな形に出来るのが、一番リスペクトに繋がるんじゃないかなと思いながらやっています。

――千原ジュニアさんの演技が素晴らしかったです。キャスティングについて教えてください。

熊澤監督:今回、ひきこもりのニートという役で、実はジュニアさんってひきこもりだったんですよね。ジュニアさんが持つ危ない感じって、原作にはあまり無いんです。でも、今回の映画の主人公には、その危ない感じ、どうなるか分からない、社会不適合者的な危うさをリアルな映画で作る場合はキーになると思っていたんです。豊田監督の『ポルノスター』や、『岸和田少年愚連隊』の時のジュニアさんの姿が僕はすごく印象に残っていて、刃物のような部分や、闇の部分を背負っている人間を描くのにジュニアさんしかいないと思ってお願いしました。

ジュニアさんと最初にお会いした時に、「あまりお芝居お芝居しなくて大丈夫です。」と言ったんです。ジュニアさんを想像しながら当て書きをしたのもあるんですけど、案の定、読んでもらうとジュニアさん的にはしっくりきたみたいなんですよね。だから、現場でもジュニアさんが感じたことをどんどんやってもらって、それをうまく切り取っていくというアプローチをしました。主人公が危険な部分をはらみながら、ヨヨ子とどうなるんだろうと、ずっと緊迫するじゃないですか。それを僕の狙い以上にジュニアさんがはねてくれて、ジャンプしてくれて、すごく良かったですよね。現場でジュニアさんのお芝居を見るのが楽しかったです。

――ジュニアさんの演技で特にいいなと思ったシーンは?

熊澤監督:大きく言うと2回にわけて撮影しているんですけど、10月の10日間と、翌年1月の4日間。最初の10日間でおお!と思ったのは川沿いのベンチのシーンですね。ヨヨ子を叩いた後の最後の顔、自分の子供だと言い聞かせた後のどんどん怒りが増して鬼の形相になるところに、「しめた!これが欲しかった。」と思いましたね。あと1月に撮った部分だと、カレー屋さんで真実を知るシーンでちっちゃい涙が流れるところ、これはどの役者さんにはできないんじゃないかなと思いますね。驚きと悲しみが混ざりあった表情で、ヨヨ子のことを思ってああいう顔になるんですけど、「こんな顔できないよね、普通。」ってビックリしたのと同時に、このパターンあるよね思いましたね。

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――ワンテイクで出来てしまうんですか?

熊澤監督:ジュニアさんて、ワンテイク目、命で撮っているんですよ。ある意味、芝居じゃないから。なるべく現場でのリハーサルはしない、そっちの方が二度と出来ないことをやってくれる人だと思ったので。

――『君に届け』の時に監督にインタビューさせてもらって、あの作品もとても好きだったのですが、あの頃と最近撮られているものが全然違うので、何か心境の変化があったのでしょうか?

熊澤監督:いや、心境の変化は無いですよ。僕は「君に届け」は大好きですし、ああいうのは結構得意ですよ。たまたま10代の青春ものはすごくオファーもいただけて、得意だし好きだから楽しんでできるし、今後もお話が来たらぜひやりたいです。でも、自分自身が一番好きなのは『ごっこ』や『ユリゴコロ』の方なんですよ。人間の闇の部分とか悪い部分を描くのが好きなんです。『君に届け』って闇の部分ないですよね(笑)。人間て良いところも悪いところもあるので、それを描きたい。『ごっこ』は暗い部分がある中で、後半は「これは確かで愛があったよね。」という部分を描けていると思います。自分も年を重ねているので、若い人じゃなくて、大人の辛さ、『ユリゴゴロ』は大人の恋愛ですけど、大人の話も描いて、どんどん自分もブラッシュアップしたいなと思っています。

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9歳の女優

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熊澤監督の前作『ユリゴゴロ』にも出演しているヨヨ子役の平尾菜々花さん。

実はその『ユリゴコロ』より先に『ごっこ』は撮影されていたため、監督と菜々花さんの出会いは『ごっこ』のオーディションだったそう。

千原ジュニアさんとの劇中でのやりとりは、ナチュラルであり、力強さがある、他ではあまり見たことがないような役者さん。そう、子役ではなく、役者さんだった。

可愛らしさだけでは演じられない複雑な役。

パパやん(ジュニアさん)と遊ぶ時の無邪気さと、子どもの純粋さゆえの鋭い言葉と目つき。この作品の訴えかけるものが彼女を通して怒涛のように襲ってきます。

ごっこごっこ

しかも当時9歳で5歳の役を演じているのにも違和感は全くない。監督は菜々花さんと「5歳の頃を覚えてる?」と話し合いながらこの役を作っていったそう。(ちなみに、菜々花さんは現在12歳。)

菜々花さんとの出会いを熊澤監督は「大収穫だった!」と絶賛していました。

 

ついに公開される今作品、思い出しても涙が出る。私はもう一度観たいと思っている。

作品情報

ごっこ

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  • 公開日
  • 2018年10月20日より
  • 劇場
  • ユーロスペースほか全国にて順次公開
  • 配給
  • パル企画
  • 公式HP
  • http://gokko-movie.jp/
(C) 小路啓之/集英社 (C) 2017 楽映舎/タイムズ イン/WAJA
君に届け

君に届け

  • 公開日
  • 2010年9月25日より
  • 劇場
  • 全国にて
  • 配給
  • 東宝
(C) 2010映画「君に届け」製作委員会 (C) 椎名軽穂/集英社

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神取恭子(かんどり きょうこ)

フリーアナウンサー、椙山女学園大学非常勤講師。愛知県西尾市出身、1977年生まれ。
現在は名古屋テレビ放送の情報番組「デルサタ」、音楽番組「BOMBER-E」にレギュラー出演。
2002年から名古屋テレビ放送(メ〜テレ)の局アナウンサーを勤め、番組「ドデスカ!」や「昼まで待てない!」などで映画監督、俳優、ハリウッドスター500人以上にインタビューを行い、舞台挨拶の経験も豊富。
他にも、報道現場でのリポートやスポーツ番組のリポーターを勤めた。
ANNアナウンサー賞 ナレーション部門受賞。
趣味は映画鑑賞(年間200本以上)、お肉を食べること(お肉検定1級)、プロレス観戦。

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