vol.122 『108~海馬五郎の復讐と冒険~』  監督・脚本・主演 松尾スズキさんインタビュー

頭の中をのぞきたい

松尾スズキさんに単独インタビューできるとあって、珍しく緊張した。

アナウンサーになって17年。

生放送、何千人を前にした司会、ディカプリオにインタビュー、様々な緊張の場面を経験してきた。

今日もこの原稿を書いた後、カメラの前に立ちニュースを読む。

昔は舞い上がって何を言っているのかわからない、という失態もよくあった。(思い出しても恥ずかしくて叫びたくなるほど)

最近はどんな舞台に出てもそうそう“あがる”ことはない。

しかし“いい緊張感で仕事をできているな”と思えるようになったのは、ここ数年。

ようやく自分の成長を実感できるようになったのに、なぜ今回また緊張したのか?

松尾さんの脳みそについていけるか不安だったからだ。

舞台や本を書き、自らも演じ個性を発揮している、その多彩で多才な頭の中をどうやったら覗くことができるのか?

緊張の中、松尾スズキさんと一対一のインタビューはうまくいったのか、どうぞ読んでみてください。

108とは?

「108」は、煩悩の数だ。

きっと煩悩に満ちた、めくるめく内容なのだろうと想像していた。

いや、決して間違いではないが、違った。

この作品の中でいう「108」は、SNSについた「いいね!」の数だ。

主人公・海馬五郎(松尾スズキ)は、ある日、愛する妻・綾子(中山美穂)が浮気していることをSNSで知ってしまう。

その投稿についた「いいね!」の数が「108」。

五郎はあまりのショックに離婚を決意するが、財産分与で資産の半分1000万円を綾子に支払はねばならないと知り大激怒。

1000万円かけて“「いいね!」の数だけ女を抱く”という復讐を思いつくが…。

ああ、なんて突飛でアホな発想!

でも、そんな発想どこから出るの?!五郎さん大丈夫?!とワクワクしてしまう自分がいた。

 

――喜劇だけど、勘違いしすぎて行き過ぎてしまう五郎さんに対して悲哀も感じる作品でした。松尾さんの思いは?

松尾さん「最初にジェラシーを感じた時点から、どんどん間違っていく。大げさな話ですけど、妄想が妄想を呼んで、先読みして…という空回りは普通にあると思うんですよね。煩悩がまったくない人間なんていないと思いますし、僕も“この間ああいうこと言われたけど、あれはこういうことか?”みたいなことを心の中で延々考えて、それを今さら蒸し返しても…と思って踏みとどまるんですけど、“踏みとどまれなくなるほどのジェラシーに囚われた人間がどう間違っていくか”というのはコメディになるんじゃないかと思ったんですよね。」

 

――構想5年、監督・脚本・主演を務めるのは初めてとのことですが、5年前からやりたいと思っていたのでしょうか?

松尾さん「喜劇を作る人間として、一本は自分が主役のコメディを残しておきたいという思いがありました。ウッディ・アレンやメル・ブルックスのように、自分が主役で出ている映画がその人らしさが一番出ると思います。僕の体を通して、この映画の本質みたいなものが出るんじゃないかと思うんですよね。」

 

――ご自身が監督で出演している作品はこれまでありましたが、主演となると出ずっぱりになると思います。どのように切り替えていたのでしょうか?

松尾さん「本番に入る前にリハーサルの期間を設けて、僕の役を代わりに演じてもらって演出していたんです。」

 

――別の方に演じてもらって客観的に見たんですね?

松尾さん「そうそう。その人の演技を見ながらアングルを考えました。本番の前のリハーサルでもその人に演じてもらって、本番では僕が入る。代わりをやってもらったのは、映画の中で“ララランド先輩”っていうホストの金髪長髪の彼です。」

 

――あっあの!どなたかを彷彿とさせるホスト役の方ですね!こういったやり方をするのは初めてですか?

松尾さん「結構彼は僕のお芝居でもそういうことをやってくれていたんです。代役慣れしています(笑)」

中山美穂は偶然のキャスティング

 

――強烈に印象に残っているシーンが“女の海”のシーンです。劇中ではじめ“女の海”というワードだけ出てきたので、ものすごく色々な妄想をしてしまいました。“女の海”とはどこから発想したのでしょうか?

松尾さん「全体を通して海のイメージが出てくるので、その流れで思いつきました。女というか人生というか夫婦というか、そういう一定の形をとらないで揺蕩っているもの。そういうものの象徴として“女の海”のシーンが出てきます。いやらしさを通り越して美術みたいになっていますね(笑)」

 

――わかります。五郎さんが108人と交わり始めた時はエロスを感じたんですけど、途中から印象が変わってきました。いま“女の海”を美術と言われて納得しました。

松尾さん「インスタレーションとして綺麗に見えればいいなと思いました。」

 

――撮影は大変だったそうですね?

松尾さん「そうですね。人数も多かったですし、みんなねちゃねちゃになっているので、決まった形をとれないんです。ストップと言っても、ズル~と動いちゃうんです(笑)」

 

――松尾さんご自身もあんなヌルヌルの中に入ったのは初めてですよね?

松尾さん「もちろんです(笑)!」

 

――(笑)。どんな感じでしたか?

松尾さん「形を決められないので、体が強張っちゃって。出たとこ勝負ですよね。メガホンで俳優たちに“うね~”とか“うよ~”とか、言葉にできないオノマトペで指示を出して、そこに自分も入っていくんですけど、本当に全部ぶっつけ本番で、2回と出来ないので大変でした。」

 

――半日くらいずっと裸で過ごすというのは大変ですよね。芸術作品なんだと改めて感じました。

松尾さん「あのシーンに出てくれた女性はほとんどがAV女優の方で、みんな文句も言わず最後まで頑張ってくれましたね。」

 

――その“女の海”のシーンは、見たからに撮影が大変そうだと分かるのですが、そうでもなさそうなのに大変だったシーンはありますか?

松尾さん「ホストクラブの前の一連のシーンですね。場所は言えないですが、人止めが大変で、日曜だったので比較的人は少なかったんですけど、野次馬が多くて、ヒヤヒヤしながら撮っていました。」

 

――ホスト役の大東俊介さん、あんな感じの役は初めて見ました。

松尾さん「彼とは5年くらい前に、『もっと泣いてよフラッパー』というシアターコクーンでやったお芝居で一緒になって、“いずれ何かやろうね”と言っていたんですが、やっと約束を果たせました。上手な人なので手間がかからなくて良かったです。」

 

――劇中で頭を“とんがりコーン”と呼ばれていましたね(笑)。かなり盛っていますよね?

松尾さん「あれは現場でみて“とんがりコーン”みたいだなと思って(笑)。カツラを二重にしてるんです。一個じゃ足りなかったので。」

 

――そうなんですね!大東さんはじめ、キャストの方の意外な一面が見える作品でした。奥さん役の中山美穂さんは、偶然この映画のシナリオをお話ししたら面白がってくださったことが出演のきっかけだとか?

松尾さん「他のキャストは昔からの知り合いだったり、この人といずれはやりたいなと思っていた方だったんですけど、中山さんだけは突然降って湧いた話というか。」

 

――何となく、あまり出てくれなそうですよね?

松尾さん「そうですね(笑)。僕からはまず頼まない。中山さんの方から“松尾さんのシナリオが面白そうだ”と仰っているという情報をいただいて、じゃあダメ元で、と頼んだんです。」

 

――偶然の接点がなかったらこういう機会は?

松尾さん「ないですよね。中山さんは演劇もされない方なので、接点がほぼない。大女優と呼ばれる方でも演劇をやっている方なら、僕も接しやすいんですけど。テレビの向こうの人という感じがしていました。」

 

――私は子供のころから“ミポリン”を観ていて、「ママはアイドル」とかを観て育ったので、あの“ミポリン”が松尾さんの作品に!という嬉しい驚きがありました。中山さんご自身から興味があると言って出てくれたということで、ノリノリで演じてくださったんですか?

松尾さん「一回、不安なシーンがあるので、ということで二人で打ち合わせをしたんですけど、そこからは“はい。わかりました。”と言って、何の疑問もなく毎日楽しげに演じてくれましたよ(笑)」

 

――五郎さんに罵倒されるシーンでは、中山さんが老眼鏡をかけていましたが、中山美穂さんが老眼鏡をかける、というのは見てはいけないものを見てしまった気持ちになりました。

松尾さん「あれは、現場で中山さんがちょっと遠目にスマホを見ていらっしゃったので。“じゃあ老眼鏡をかけてみようか”となりましたね(笑)」

 

――脚本にあったわけではないんですね?

松尾さん「あれはアドリブです(笑)。作品ファーストで協力してくれましたね。中山さんもこれまで色々な仕事をこなされて、これからは自分のやりたいようにやる、という第二段階に入ったんじゃないかなという気がしましたね。」

 

――松尾さんから見て中山美穂さんのこういうところが素晴らしかったという象徴的なことはありますか?

松尾さん「シナリオの意図を読み込んで、すごくプロフェッショナルに現場に居続けたというところですね。気を遣かわせる女優さんもいたり、私にもっと構ってくれないの?という方もいらっしゃいますけど、そういうことは一切ない。僕も自分が主演で自分のことで精いっぱいなので、現場に入ったら中山さんに構っていられなかったんですけど、むくれることなく楽しんでくれました。」

 

――現場を見てみたかったです。

松尾さん「でも淡々としたものですよ。」

 

――そうですか。淡々としていないと、色々な方と交わらなければいけない松尾さんは本当に大変ですよね

松尾さん「もう本当に一日のうちのとっかえひっかえやっているから、何がいやらしくて、何がいやらしくないのかわからなくなってきちゃって。」

 

――目指したのは、いやらしさではないんですよね?訳がわからなくなってしまった五郎さんとシンクロしているような?

松尾さん「そうですね。五郎さんがセックスしていて楽しそうにしているシーンを撮らないようにしているので。全部辛い、という。」

 

――主題歌は、星野源さんの「夜のボート」です。2008年の舞台の楽曲を歌いなおしてもらったそうですが、どうしても今回は「夜のボート」を主題歌にしたかったということでしょうか?

松尾さん「11、2年前、星野が全部音楽をやってくれた芝居の楽曲なんですけど、“海”が縦軸に出てくるので、脚本を書いた瞬間から『夜のボート』を使いたいと思っていました。」

 

――悲しい曲というイメージなのですが。

松尾さん「悲しいというのかな、ちょっと切ない。」

 

――この『108』の喜劇だけど切ない雰囲気にハマるなと思われたのでしょうか?

松尾さん「全体的にテンション高めな画が多いので、最後は星野の歌で余韻を残すみたいなことですね。」

 

――最後に、五郎さんは松尾さん自身を投影した人物ではないのでしょうか?

松尾さん「あんな感じではないですね(笑)。子供もいないですし。似ているところはないと思いますけどね。あんなにミュージカルの人たちをバカにしていないです(笑)」

 

 

松尾さんと向き合ってお話を聴き、あがることは無かったが、終始緊張しっぱなしだった。

凡人の私には想像できない松尾さんの頭の中。

私的には、中山美穂さん演じる綾子の浮気相手?がコンテンポラリーダンサーというのが、どうしてもツボで、そういう細かなセンスが大好きなのです。

いつかまた覗かせてもらいたい、もっとお話ししたい、と決して煩悩ではない、願望であり新たな目標ができた。

 

主題歌:星野源
撮影:山崎裕典
照明:鳥羽宏文
録音:久連石由文
美術:堀明元紀
スタイリスト:安野ともこ(コラソン)
振付:振付稼業air:man
音楽:渡邊崇

 

作品情報

108〜海馬五郎の復讐と冒険〜

108〜海馬五郎の復讐と冒険〜 R-18

  • 公開日
  • 2019年10月25日より
  • 劇場
  • 全国にて
  • 配給
  • ファントム・フィルム
  • 公式HP
  • https://108-movie.com/
(C) 2019「108〜海馬五郎の復讐と冒険〜」製作委員会

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神取恭子(かんどり きょうこ)

フリーアナウンサー、椙山女学園大学非常勤講師。愛知県西尾市出身、1977年生まれ。
現在は名古屋テレビ放送の情報番組「デルサタ」、音楽番組「BOMBER-E」にレギュラー出演。
2002年から名古屋テレビ放送(メ〜テレ)の局アナウンサーを勤め、番組「ドデスカ!」や「昼まで待てない!」などで映画監督、俳優、ハリウッドスター500人以上にインタビューを行い、舞台挨拶の経験も豊富。
他にも、報道現場でのリポートやスポーツ番組のリポーターを勤めた。
ANNアナウンサー賞 ナレーション部門受賞。
趣味は映画鑑賞(年間200本以上)、お肉を食べること(お肉検定1級)、プロレス観戦。

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