vol.96 『空母いぶき』 西島秀俊さん、深川麻衣さん、若松節郎監督インタビュー

神取恭子のシネマコラム vol.96 『空母いぶき』 西島秀俊さん、深川麻衣さん、若松節郎監督インタビュー

遠くない未来

完全に勘違いしていた。

原作コミックも読んでおらず、予備知識なく観はじめたら、『空母いぶき』は“遠くない未来”の話だと分かった。

何故か過去の戦時中の話と思い込んでいたので、冒頭で「え?」となるという…。急速に頭の切り替えをして臨みました。

(私がなるべく予備知識なく映画を観ている理由については以前コラムに書きましたが、今回はちょっと無知すぎました)

20XX年、クリスマスイブ前日の12月23日、日本を未曾有の危機が襲う。

国籍不明の武装集団に日本の領土を占拠され、訓練航海中の第5護衛隊群に出動が命じられる。

映画『空母いぶき』

この“遠くない未来”というのがポイントで、まさに数年後、いや明日起きてもおかしくない話。(空母の有無は別として)

日本は「戦争」をしない国。でも、戦後、ずっと平和だったからといってこの先も平和とは限らない。

万が一、この映画のような攻撃を受けたら、なんて、ちゃんと考えたことがなかった。

その時、自衛官たちがどんな思いで最前線に立つのか、政府はどんな決断を迫られるのか、緊迫の24時間が描かれている。

原作にはない、マスコミやコンビニの様子など、オリジナルのシーンも盛り込まれていて、より私たちに近い目線で観ることが出来ると思う。

「戦争をしないために守るという映画。男性だけでなく、女性、子ども、家族で観てほしい。」

インタビューで深川麻衣さんや若松節郎監督がこう言っていた。

アクション映画でもあるけど、もっと人間を描いている作品。

第5護衛隊群の各艦(「いぶき」「はつゆき」「はやしお」「あしたか」「いそかぜ」「しらゆき」)の役割や、乗組員それぞれの人柄もとても興味深い。

「戦争をしない」とはどういうことなのか。

壮大なストーリー。でも大事なのは、ひとつの命。

いぶき艦長・秋津とは

神取恭子のシネマコラム vol.96 『空母いぶき』 西島秀俊さん、深川麻衣さん、若松節郎監督インタビュー

航空機搭載型護衛艦、いわゆる“空母”「いぶき」の艦長・秋津竜太を演じた西島秀俊さん、この映画の中では、唯一、私たちが身近に感じるコンビニでのアルバイト店員を演じた深川麻衣さん、これまで「沈まぬ太陽」「柘榴坂の仇討」などを骨太な人間ドラマを手掛けてきた若松節郎監督、小滝祥平プロデューサーにインタビューさせてもらいました。

 

西島さんは直近だと「オズランド」(vol.65)でインタビューさせもらって以来です。(直接お話を伺ってはいませんが、東京国際映画祭で「人魚の眠る家」も取材(vol.66)

今回はテーマが重厚なこともあってか、西島スマイルはほぼ封印して、真剣な表情で答えてくれました。

深川さんも東京国際映画祭の「愛がなんだ」レッドカーペット(vol.89)以来ですね。

 

西島さん演じる「いぶき」の艦長・秋津は、航空自衛隊のエースパイロットから、海上自衛隊に配属されたという異色の経歴。そして、何を考えているのかわからないミステリアスな役どころでもある。

映画『空母いぶき』

自身の印象に残っているシーンを伺うと、少し悩みながら「甲板のシーン」と答えてくれた。

西島さん「この映画の中で一番の危機。全員が踏み越えるギリギリのところで、葛藤の一番のピークがくるシーン。」

終盤のシーンなので詳しくはお伝え出来ませんが、まさに“守るために攻撃すべきか否か”を終始葛藤し続けた自衛官たちの緊張が爆発寸前の緊迫のシーン。

西島さん「僕自身の役も、本当の思いを吐露するシーンでもあります。」

この時の演技について若松監督は、

「西島さんが堪能な英語をね。すごく流暢に言うわけですよ。撮影は朝の3時4時で、それがまたいい結果を生みました。ブルブル震える相手に秋津が優しいセリフを言う、最高です!」

と、西島さんにグッと親指を立てるジェスチャーをし、絶賛。

また、若松監督は西島さん演じる秋津竜太という役について、

若松監督「秋津という役は、最初微笑んでいるような、なぜこんな大変なときにそんな余裕があるの?本当は悪い人じゃないの?と思うような役。でも西島さんが演じるからきっと悪い人じゃないと観客も思いますよね(笑)」

西島さん「順撮りで、今起きている重大さを確認しながら撮ったので、正直どんどん追い詰められていくんですよね。でもそういう演技をすると、監督は“ダメだ、ここは笑ってくれ、周りの人間と同じリアクションをとらないでくれ”と、丁寧に演出をしてもらいました。」

コンビニ店長のアドリブ

深川さんは、戦闘シーンとは真逆にある、まさに今私たちが日常生活している、そしてクリスマス前で浮き立つ平和なコンビニのアルバイト店員を演じた。店長役は中井貴一さんということで、今回どんなことを得られたか聞いた。

深川さん「中井さんは、本読みのときから劇中のキーワードになる“メッセージカード”について、若松監督と“もっとここをこうした方がいいんじゃない?と相談されていたり、カメラが回るたびにアドリブが飛び出したり、どうしたら作品をもっと良くできるのか積極的に取り組んでいらっしゃいました。私にとって画面を通して作品を拝見してきた大先輩なので、そういうお姿を間近で拝見できたのは嬉しかったです。」

中井さんのアドリブにはどう対応したのか?

深川さん「どういうものが飛び出してくるのか分からないので、ずっとバットを構えて、とにかく打ち返そうという気持ちで取り組みました(笑)」

西島さん、深川さんは完成した作品を観てどう思ったのか?

神取恭子のシネマコラム vol.96 『空母いぶき』 西島秀俊さん、深川麻衣さん、若松節郎監督インタビュー

西島さん「いぶきの撮影現場は本当に丁寧に撮影しました。“防衛出動”が、相手を撃墜するということが、どれだけ大きなことなのかを皆で共有しながら撮影して、非常に真剣な厳しい撮影現場でした。ただ、周りの艦や、政府、マスコミ、コンビニは、台本だけでお会いできていないんですよね。出来上がりを観て、コンビニはクリスマス前で沸き立っているけど、「いぶき」はギリギリの戦いをしている。政府もマスコミもそれぞれ別のことを考えている。皆バラバラなようだけど、まさに(中井)貴一さん演じるコンビニの店長が、メッセージカードに書く子どもたちの未来への思いと同じ気持ちで繋がってラストに向かって行く。シーンはバラバラでも、同じ覚悟というものを感じました。どのシーンも凸凹がない。俳優、スタッフが覚悟を決めて、この作品に対して真摯に取り組んだんだなと改めて思いました。」

 

神取恭子のシネマコラム vol.96 『空母いぶき』 西島秀俊さん、深川麻衣さん、若松節郎監督インタビュー

深川さん「映画って2時間で色んなものを見せてくれて、色んな場所に連れて行ってくれるものだと思うんですけど、この作品を初めて観たときに、映画の力を強く実感しました。日常がいかに恵まれているか考えさせられましたし、自衛官だったり、影で守ってくれている人の存在をリアルに身近に感じられたのはこの作品が初めてでした。」

日本ならではの映画

西島さん演じる秋津と対立するような立場なのが、佐々木蔵之介さん演じる新波副長。二人は防衛大学の同期でトップを争った仲でもある。

佐々木さんとの撮影について西島さんは、

西島さん「蔵之介さんは、簡単な対立軸にしたくないと仰っていました。同期で信頼し合っていて、同じ目的に向かっているという間柄なので、二人きりの廊下のシーンは向き合うけど、誰かいるときは、完全に向き合うのは避けていたと言っていました。僕も誰かいるときは“新波二佐”と呼ぶんですけど、二人きりで廊下で話すときは“新波さん”と呼ぶんですね。同期として話すので廊下のシーンでは秋津もちょっとだけ本心が出ています。そこは二人とも意識をしてこだわって演じました。」

西島さんのコメントでとても印象的なものがあった。

西島さん「日本は“専守防衛”を守らなければならないので、相手が撃ってこないと撃てない。その中で、相手が撃ってきたので撃墜するシーンで、その撃墜したことに衝撃を受けるんです。他の国の映画であれば、相手を撃墜したら“うわー!”と盛り上がるところが、日本の自衛官はおそらくこうであろうと。撃墜した自分の感触に衝撃を受けて、“しーん”としてしまう。僕のセリフでも“この感触を覚えておけ”というのがあります。自衛官でも人間で、日本人で、そういう心の動きをするであろうというリアリティを丁寧に描いていて、日本ならではの表現だと思います。それが、一人の命がどれだけ大切なものなのか、ということに繋がっていると思います。」

 

西島さんの言葉を聴いて、最近の映画でジェラルド・バトラー主演の『ハンター・キラー』を思い出した。

米軍の潜水艦を主に、アメリカとロシアの一触即発の攻防が繰り広げられる作品で、バチバチに撃ち合う。エンタメアクションとして面白い作品だった。

単純にそれと比べると、『空母いぶき』は、お国柄というか、日本の置かれている立場をかなり追い込んで描いている。

「戦争をしない」とはこういうことなのだ。と、ようやくリアルに感じられた。

私は明日もコンビニでのんきに買い物をしたいし、マスコミとして、ニュースを読む立場だけど、できれば事件などでなく、平和なニュースを伝えていたい。

そんな明日が続きますようにと願うばかりだ。

作品情報

空母いぶき

空母いぶき

  • 公開日
  • 2019年5月24日より
  • 劇場
  • 全国にて
  • 配給
  • キノフィルムズ
  • 公式HP
  • https://kuboibuki.jp/
(C) かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ

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神取恭子(かんどり きょうこ)

フリーアナウンサー、椙山女学園大学非常勤講師。愛知県西尾市出身、1977年生まれ。
現在は名古屋テレビ放送の情報番組「デルサタ」、音楽番組「BOMBER-E」にレギュラー出演。
2002年から名古屋テレビ放送(メ〜テレ)の局アナウンサーを勤め、番組「ドデスカ!」や「昼まで待てない!」などで映画監督、俳優、ハリウッドスター500人以上にインタビューを行い、舞台挨拶の経験も豊富。
他にも、報道現場でのリポートやスポーツ番組のリポーターを勤めた。
ANNアナウンサー賞 ナレーション部門受賞。
趣味は映画鑑賞(年間200本以上)、お肉を食べること(お肉検定1級)、プロレス観戦。

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