その日のまえに

売れっ子イラストレーターで、デザイン事務所を経営する日野原健大(南原清隆)。育ち盛りの息子二人の子育てに奮闘中の妻・とし子(永作博美)。二人は、18年ぶりに結婚当初に住んでいた街を訪れる。その頃健大は収入もなく、暮らしは貧乏だった。「ここ、前、なんだったっけ?」「やだ、忘れたの? マーケットよ。」すっかり様変わりした商店街を懐かしそうに歩く二人。暮らし始めていちばん最初に食器棚を買った家具屋で、思わず店内に入ってしまう二人。「あの頃って、おまえ不安じゃなかったか?」「私、もう一度生まれ変わっても、同じように無職の男と結婚して、一番安い食器棚を買うと思う」とし子の余命は、あとわずかだった。絶望の中から、来るべき『その日』までを一所懸命生きようと決めた二人は、今は思い出の中だけに残る情景を確かめていた。同じく、何かを求めてこの町に降り立った佐藤俊治(筧利夫)。シュンと呼ばれた少年時代を過ごした街で、どうしても会って話したい旧友を訪ねるために、俊治は、もう治る見込みのない身体に無理をしてやって来たのだった。「今朝、目が覚めたら、妙に気分が良くてさ、…気がついたら、電車に乗って、ここに来てた。なぜかな…」そう打ち明ける俊治に、幼馴染の[できめん]こと石川(今井雅之)は、やさしくうなずく。喫茶店『朝日のあたる家』で働く入江睦美(宝生舞)と、カメラマンを目指しながらコンビニ勤めで今は生計を立てる武口修太(斎藤健一)は、ひっそりと隠れるように、この街で暮らしている。偶然、睦美が中年男性に襲われたところに居合わせた健大ととし子。危害がとし子にも及びそうになった寸前に助けに入り、睦美を守った武口。「彼女、僕の店で万引きしてたんです。ぼくはずっと、それを見逃してやってきました」夫の家庭内暴力に耐えられず、心の病を負い、家を飛び出した睦美に寄り添う武口。傷ついても精一杯生きようとする恋人たちを、健大ととし子は優しく見つめる。健大と とし子の二人の息子・健哉と大輔は、母の本当の病状を知らなかった。「わたしね、最後の最後のぎりぎりまで、二人の元気な顔を見ていたいの。」「お母さんは、与えられた命を最後まで、強く、美しく全うした、そう格好良く思われたいじゃん」ある日、塾帰りの大輔は、遊歩道でチェロを弾きながら歌う、秀麗な青年に目と耳を奪われる。ミュージシャンの名はくらむぼん、歌っているのは宮澤賢治の詩『永訣の朝』。くらむぼんを囲むギャラリーの最前列に異彩を放つ中年女性がひとり。川田孝子(柴田理恵)。彼女にもまた死が迫っていた。ひとり息子のトシに打ち明けられないまま、くらむぼんの歌を希望として『その日』までを生きている。とし子の『その日』が迫る。「その日は、…暑くも寒くもない秋晴れの日がいいな。…すっごく気持ちのいい朝だったら、うん、意外とにっこり笑って死んじゃえるかもしれない」そして、その日のあと―。

解説

愛する人の死を、あなたは受け入れることができるか? 『その日のまえ』をどう生きるか? 人間の、夫婦の、家族の、ここから始まる物語。2005年に出版、「涙が止まらず、通勤電車では読めない」と、絶賛と反響を巻き起こした、直木賞作家・重松清の連作短篇小説『その日のまえに』。 余命=『その日』を宣告された妻と、その夫が、『その日』までを一所懸命生きる姿と、そこに関わる人びとの、切なくもけなげな物語がついに映画化。『死』をドラマチックに描くのではなく、誰にも普通に訪れる『その日』として厳しく見つめながら、その恐れや悲しみを軽やかに飛び越える、巨匠・大林宣彦監督の斬新な映像表現。映画では実に20年ぶりのコンビを組む市川森一が脚本を担当(撮影台本として、大林宣彦、南柱根が参加)。映画化のオファーが殺到しながらも、実現困難と言われた原作を、見事に映画的創造力世界へ置き換える、という冒険を成しえた。物語の柱となる夫婦役には、「L change the world」の南原清隆と「人のセックスを笑うな」の永作博美。更に、筧利夫、今井雅之、風間杜夫、原田夏希、柴田理恵、根岸季衣ら個性派、実力派の豪華俳優陣が脇を固め、群像劇を彩る。

2008年11月1日より

  • 配給
  • 角川映画
  • 製作国
  • 日本(2008)
  • ジャンル
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  • スタッフ・キャスト