涙の港

磯打つ浪の音にまじって聞えてくる秋祭りのおはやし、ある港町の秋である。目抜通りにある食堂、まんまる軒のお神お政は、いつも気っぷのいい顔で客相手に余念がない。それをかいがいしく助けているのは、お政の一人息子徹と許婚の仲であった姪の岐代子だった。その一人息子もいまは戦死して、皮肉にもその祭りの日が五年目の命日である。幼かった徹が祭りを喜んで、おみこしだ、だしだ、とはしゃぎ回った姿がお政には、昨日のことのように思い出される。その日だけは、お政も店を人に頼んで岐代子と、息子の幼友達だった森口巡査をつれて墓参をするのだった。息子を亡くして、いまは一人ぼっちのお政は岐代子がまるで自分の娘のように考えられるし、幼友達の森口となら気心も知れているのだから、二人を結婚させようと墓参の帰りに話を切り出した。二人共異存のあろうはずもなく話は進んで仮祝言というところまで進んだ。そのころ船着場に定期船がついてさん橋からゾロゾロと降りてくる船客にまじって、火傷あとのあるマドロス風の男が人目をさけて降りたのをだれも気づかなかった。まんまる軒の奥座敷では、岐代子と森口の盃ごとを交していた。その場景を窓からのぞきこんでいる、例のマドロス風の男の眼がしっとで光るその席場へ花婿の森口巡査は署から至急の呼び出しがかかった。この港町に顔半面に火傷のあるマドロス風の犯人が入ったらしい形跡があるというのである。一せいに港町に警戒網が張られた。ふとお政は店番をしていて、物音をききつけて奥に入った。そこには、なつかしそうにして息子の徹が立っているのである。何年ぶりかで親子はヒシと抱き合った。フト気がつくと、徹の顔半面は火傷だった。一瞬、お政は徹がその犯人であることを悟った「誰だ!お前は、息子の徹だったら自首して出るはずだ」と心を鬼にして警戒網の町に追いたてた。徹に自首させて真人間になってもらいたいと願う母の心を誤解して、すべてに裏切られたと恨み言を残して徹は去っていった。かつては幼友達であった徹を、森口は職務として、いまは捕えなければならない巡り合せだった。徹は許婚の岐代子を森口にとられて裏切られたと思い込んで追ってくる森口に復しゅうしようとねらっているのだ。徹はピストルをもっている。しかし森口は傷をうけたままひるまず迫った。悲嘆にくれているお政のためにも自首してもらおうというのだった。その森口に続いてお政も追う。ついに倉庫に追いつめられた徹は自暴自棄になっていたが、お政の捨身の努力によって、徹の心もやわらぎ、お政の言葉通り潔よく森口の捕縛に自ら掛ったのである。

解説

企画は「毒薔薇」の中代富士男、脚本は「流星」(新東宝作品)「毒薔薇」「彼女は答える」(松竹京都作品)の館岡謙之助、監督は「親馬鹿大将」以来の春原政久が久々でメガフォンをとり、キャメラも同じ長井信一が当る。出演は「わたしの名は情婦」の二本柳寛が多摩川作品に初出演をし「愛染草」の英百合子「大都会の丑満時」の伊沢一郎、若杉須美子らが共演しているほか、伊丹秀子の特別出演になる浪曲映画である。

1949年10月24日より

  • 配給
  • 大映
  • 製作国
  • 日本(1949)
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