樹氷悲歌

蔵王連峰を背にいだく、ひなびた温泉地上山に、十六歳になった少女桂みやが住んでいた。雪間のある日、街はずれの競馬場に馬匹輸送車のトレーラーからハーフコート姿の青年が降りたった。しばらくしてみやの手元に一通の紙切れが届けられた。指定された稲荷神社に行くと、そこには競馬騎主を夢みて、ダービー出場までは故郷に帰らぬと誓ったはずの米沢信一が立っていた。激しく問うみやに信一は顔をそむけるだけだった。旅館の息子として生まれた信一は、三年前、大学を卒業させて家を継がせるという母を残したまま、馬事公苑に就職してしまったのだ。日も暮れかかり、母に会いたくないという信一を残したまま、みやは信一の母秋江に会いにいったが、冷たくあしらわれただけだった。途方にくれるみやと信一は、彼女に想いを寄せる同級生町田邦夫を頼った。町田は、父雄作の経営するロッジの一室を借り切って、友だちを集め宴を張った。みんなで歌う郷士民謡の中で、友情の温かさを知った信一は、練習中に落馬して右眼をいため競馬騎手としての将来に絶望して、みやに一目会いに帰ってきたことを打ち明けた。翌日、信一を邦夫に託し、家に帰ったみやは、父源三が自動車事故にあったことを知った。病院に駆けつけたみやの、信一への一途の愛を知った源三は、信一の許に送り帰した。一方、秋江も、口では二人の事に反対しながらもそっと信一に手づくりの握り飯を運んだりしていた。みやの懸命な説得によって、信一は手術で右眼を快復させ、再び騎主になることを決意した。そして東京出発の前日、みや、信一、邦夫の三人は、小学生の頃よくいった蔵王に登り、みやと信一は将来を誓い合った。だが、春を目前にする蔵王は安全な山ではなかった。樹氷の間をスキーで飛ばすみやの首から、青いマフラーが舞い落ちた。それをストックで拾い上げようとした信一はバランスを失ない、前にのめり、折れたスキーが足につき刺さってしまった。歩けなくなった信一を急ごしらえのスキーソリでひっぱっていくうちに吹雪が三人の視界を失なわせ、日の暮れた蔵王の難所とされている地獄平に三人は迷い込んだ。ビバーグ用の雪穴の中に信一とみやを残すと、邦夫は決死の連絡に下り立った。急激に冷えだす雪穴の中で足の自由を失った信一の体は凍傷にかかっていった。すでに燃やすものがなくなった。みやは、衣服を取って信一の胸に重なった。冷え切った信一の体も、みやの肌の温もりで少しずつ意識を回復していった。しかし、その時、雪崩が雪穴の出口を塞いでしまった。希薄になる空気を求めて、みやは必死に探り進んだ。翌日邦夫の連絡で駆けつけた救助隊が見たものは、虫の息の信一と、すでに冷たくなったみやの姿だった。

解説

「高校生心中 純愛」に続く、関根恵子主演の純愛映画。脚本は「すっぽん女番長」の高橋二三。監督は「ボクは五才」の湯浅憲明。撮影は「おさな妻(1970)」の上原明がそれぞれ担当。

1971年5月5日より

  • 配給
  • ダイニチ映配
  • 製作国
  • 日本(1971)
  • ジャンル
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  • スタッフ・キャスト