火宅の人

作家、桂一雄は、最初の妻リツ子に死なれ、後妻としてヨリ子をもらった。ヨリ子は腹ちがいの一郎をはじめ、次郎、弥太、フミ子、サト子と5人の子供を育ててきた。昭和31年、夏、一雄は新劇女優、矢島恵子と事をおこした。8年前の秋、彼女が知人の紹介状を持って訪ねて来て以来、その率直さに心魅かれていたのだ。恵子はその後、一雄の忙しい時に原稿の清書を手伝ったりしていた。26年に「長恨歌」で直木賞を受けた一雄は、受賞の喜びよりも恵子の嬉しげな笑顔の方が、心に残る。だが、指一本触れたことがなかった。そんな時、一雄の身辺に凶事が重なった。一昨年の夏は、奥秩父で落石に遭い助骨3本を骨折。昨年の夏は、次郎が日本脳炎にかかり、言葉も手足も麻痺してしまう。そして今年の夏。一雄は太宰治の文学碑の除幕式に参列するための青森行に、恵子を誘ってしまった。ヨリ子は次郎の事があってから、怪しげな宗教の力にすがるようになっていた。一雄はある局面に向って走り出した。40年前、一雄の母は、神経衰弱の父と幼い妹二人を残して、年下の大学生と駆けおちしたのである。青森から帰った一雄から、全てを打ち明けられたヨリ子は、翌日家出した。一週間すぎても連絡はない。一雄は若々しい恵子との情事のとりこになっていった。ある嵐の夜、ヨリ子は一生、次郎と子供たちのために生きる覚悟を決めたと戻ってきた。入れ替わりに一雄は家を出、浅草の小さなアパートで恵子と新しい生活をはじめる。一郎がそのアパートに空巣に入るという騒ぎ、恵子が某怪人物に溺愛されているとの噂に、嫉妬に狂った一雄が京都公演中におしかける事件などの後、恵子が妊娠した。堕胎を決意した彼女は、一雄に同行を求めるが、彼にはそんな時間の余裕はなかった。その夜、二人は派手な喧嘩をした。逃げるように東京を離れた一雄は、五島列島行の連絡船にとび乗った。彼はそこで、京都で怪我をした時介抱してくれた女性、葉子に再会した。義父に犯された暗い過去を持つ彼女は、10年ぶりに里帰りしたのだ。葉子は、あてのない一雄の旅の道連れとなったが、クリスマスの夜、求婚されていた華僑への返事を、これ以上のばせないと一人で旅立って行った。東京へ戻り、久々に正月を家族と過ごすことになった一雄のもとに、次郎の死が知らされる。次郎の葬儀の日、恵子から一雄の荷物が届けられた。

解説

家庭を捨て、新劇女優と同棲するなど、自由奔放な作家の生き方を描く。檀一雄原作の同名小説の映画化で、脚本は「逆噴射家族」の神波史男と「上海バンスキング(1984)」の深作欣二の共同執筆。監督は深作欣二、撮影は「夜叉」の木村大作がそれぞれ担当。主題歌は、嵯峨美子(「火宅の人」)。

1986年4月12日より

  • 配給
  • 東映
  • 製作国
  • 日本(1986)
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