生けるパスカル(1936)

平和なイタリアのある町に育ったパスカルは幼馴染のロミルダと結婚した。しかし彼の財産が後見人に横領されて無一文の事が判ると、急に妻とその母ペスカトーレ夫人はパスカルの無能を罵り、事毎に彼の母を虐待するのであった。やがて母は病を得て此の世を去った。淋しく野辺の送りを済ませると、そのまま彼は家を後に新天地アメリカを目指してマルセイユ行きの汽車に乗り込んだ。列車の中で賭博師のレナイと近づきになったパスカルは其の夜モンテ・カルロのカジノで一夜の中に巨万の富を得た。彼はすぐ故郷へ足を帰して母の墓に詣でた。するとそこには新しい墓が掘られパスカルの葬式が行われている所であった。身元不明の水死人をパスカルと思い誤って埋葬する事になったのだ。彼は物蔭から妻や友人の流す涙を冷ややかに眺めて再び故郷を去った。アドリエン・メイスと変名した彼はローマの街で知り合った少女ルイゼの家に間借りをした。彼女の家にはパピアノという男がいてルイゼに婚約を迫っている。彼女がパスカルに好意を寄せているのを見ると嫉妬にかられてパスカルを侮辱するのであった。だが戸籍から抹殺されている我身を思うと無謀に争う事も出来なかった。彼は遂にルイゼと土地を捨てる決心をした。約束通り荷物を整えて待っているルイゼの許へパスカルは昨夜有り金を全部盗まれた事を告げに来た。パピアノが盗んだのは明らかであったが警察へ訴える事さえ出来なかった。愛する者にさえ真実を打ち明け得ぬ無籍者の惨めさ、パスカルは故郷に帰って事実と直面してみようと決心した。ロミルダは以前から好き合っていた町長の息子ポピノと再婚し、二人の間には愛らしい子供さえ生まれていた。パスカルの出現によって夫婦やペスカトーレ夫人はただ怖れおののいた。知らぬとは云え重婚の罪を犯していたのだ。パスカルは今こそかつて己を嘲笑した彼等を笑い返してやるのだった。ポピノを脅迫して彼はアドリエン・メイスなる人物の戸籍を作らせた。かくしてパスカルは名実共にアドリエン・メイスとなったのである。パスカルの失踪に不安を感じていたローマのルイゼの家へ、突然アドリエン・メイスは姿を現してパピアノの前に身分証明書を突きつけ、ルイゼに優しい微笑みを見せるのであった。メイスは愛するルイゼを胸に抱いて始めて心からの平和な歓喜に浸りながら囁くのであった「以前パスカルという青年がいて、毎日草原で蝶を追いながら暮らしていた」と。

解説

ルイジ・ピランデルロの小説『故マチアス・パスカル』を映画化したもので「罪と罰」のピエール・ブランシャールが主役を演じている。スタッフは「罪と罰(1935)」「流血船エルシノア」と同じく、ピエール・シュナール監督、シュナールとクリスチャン・スタンジェルが脚色、マンドヴィレとバックが撮影に協力しているが、なおフランス文壇に名あるアルマン・サラクルウが脚色に参与し、同じくロベール・ヴィドラックが台詞を書いた。音楽は「ゴルゴダの丘」「ドン・キホーテ(1933)」のジャック・イベールが担当している。助演者は本邦初お目見得のイザ・ミランダを始め「流血船エルシノア」「ゴルゴダの丘」のロベール・ル・ヴィギャン、新顔のジネット・ルクレール、「第二情報部」のピエール・アルコヴェー、「みどりの園」のシノエル、「地の果てを行く」のマルゴ・リオン及びシャルル・グランヴァル、カトリーヌ・フォントネー、シャルロット・バルビエ・クロース、ジャン・エベイ等である。

  • 配給
  • 三映社
  • 製作国
  • フランス(1936)
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  • スタッフ・キャスト