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戸田奈津子さん「映画の恋にハマったら」トークショー

2008.03.28

出席者:戸田奈津子(字幕翻訳家)
戸田奈津子さん「映画の恋にハマったら」トークショー
ハリウッド映画の字幕翻訳家で著名な戸田奈津子さんだが、今回のイベントは韓国映画を鑑賞。かなり新鮮な映像体験だったようだ。トークショーではその率直な感想を語った。


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戸田さんは英語の字幕翻訳者ということなのですが、韓国映画はどのくらい御覧に?
戸田:「今回のこの『恋の罠』のことでいろいろ、ちょっとエスピーオーさん(『恋の罠』配給会社)からお声がかかっちゃって、私は英語の字幕翻訳者ですし、とにかく年間猛烈に忙しくて担当した映画は何回か見るわけですけれども、なかなかそれ以外に見る時間がないのね。いつも見逃してばっかりで、見ている映画の本数は猛烈に少ないです。ほんとにマニアックに何百本も見るとか、とんでもないです。その時間がないもんですからいわゆる韓国映画はあんまりね、はっきり語るべき資格がないのでね、びっくりしたんですけれど。かえってエスピーオーさんが新鮮な方に見ていただきたいっていうのがあって、今回拝見したんですけれど、勿論「冬のソナタ」?それから「チャングムの誓い」とか全話ではないですよ。時々テレビで見て、『四月の雪』とか『八月のクリスマス』とか、その辺はね、韓国の恋愛映画ということで勿論見ておりまして…。韓国の映画、純愛なのね(笑)、なんて、そこらへんは一応感覚としては持ってるんですけど、それを語るほど韓国映画知識はありません」
今回の『恋の罠』は純愛というカテゴリーではないですね
戸田:「私の勝手な先入観として、韓国の恋愛映画は純愛?と思ったけど、私が一番『恋の罠』で驚いたのは、サプライズだったということね。先入観が非常に覆された映画で、内容的に、韓国にもこういう映画があるの?という、とても新鮮な驚きで拝見いたしました」
これはいわゆる宮廷ものなんですが、宮廷映画ってどこの国にもあると思うんですね。欧米が、例えば『エリザベス:ゴールデン・エイジ』だったり、あのような宮廷歴史物の映画と、韓国の『恋の罠』のような映画だと、どのようなところが違ってきますか?
戸田:「宮廷ものにはみなさんとても興味を持っていて、やはり特殊な世界でしょ、宮廷というところは。普通の人が接触するような世界じゃないし、権力が渦巻いてですね、ドラマがある世界ですよね。だから映画やお芝居の題材になるわけです。英語訳といえばシェイクスピアじゃないですか。シェイクスピアといえば英国の権力闘争、『エリザベス:ゴールデン・エイジ』が一つ頂点ですけれど、リチャード3世にしろヘンリー5世にしろ、イギリスの王朝の血みどろの権力争いというのは、本当にすごいわけね。親殺すなんて平気、子供まで殺したりね、ロンドン塔に幽閉して拷問して殺しちゃうとかね、ものすごい惨酷なわけですよ。それだけにおもしろいけど。私はイギリスのヘンリー8世とかエリザベスとかあの頃の歴史は非常に勉強して知っているわけです。興味もありましたし。
そういうことから見れば、恥ずかしいけどお隣の国の宮廷・歴史なんてことはほとんど知らないわけです。イメージもこの映画を見るまでわからなかった、韓国の昔の宮廷がどんなところかというのは。エリザベスの時代、イギリスやフランス、ロシアの映像は映画で見ているからイメージがわくけど、今回初めて韓国の宮廷がこういうところだと、とても風俗的におもしろい部分がありましたね」
欧米のほうだと見慣れていますね
戸田奈津子さん「映画の恋にハマったら」トークショー戸田:「結構ね。その点、お隣のことをもっと知らなければと思うんですけど、宮廷の風俗・習慣を見ながら権力闘争があってなんですが、イギリスはひたすら権力闘争。勿論恋愛は出てきますが、SEXがらみのどろどろした男と女ってないわけ。フランス人はお国柄でねアモーレの国だから、貴族の世界を描いています。一番代表的なのは『危険な関係』とい非常に有名な小説が、何度か映画化されています。「艶笑」という字があるでしょ。フランスは劇作家も権力よりは男と女の恋愛をテーマにした人が多く、「危険な関係」は男と女がある女を策略でもって色がらみで貶めていくという、これはちょっと『恋の罠』という日本の題名が内容をばらしているんだけど、そこらへんがね「危険な関係」に似ているものがあって。『恋の罠』はイギリスとフランスと両方の部分をごっちゃまぜに持っていて非常に面白かったですね。この映画も大変血なまぐさいところもありますけど、それプラス色恋のほうもばっちりあるわけね。しかもこの映画は、みなさん今から御覧になるから種をばらしませんけど、笑っちゃうんですよ。ものすごいおかしい笑いがあるわけ。『エリザベス:ゴールデン・エイジ』なんかは笑うところないでしょ」
ごらんになったかたいらっしゃいますか?
戸田:「シェイクスピア見ても、笑うところなんか絶対ないわけですよ。道化が面白いこと言うことありますけど、場面としてシェイクスピアはあまり笑いがない。『恋の罠』は、おもわず笑っちゃうというところがかなりあります。そこらへんのミックスが猛烈にわたしは新鮮で。韓国の歴史ものでも珍しいわけでしょ?」
そうですね。笑っちゃうっていう歴史ものはそうはないですね
戸田:「たぶんユニークなんだと思います。結構ながい映画ですけど、でもね退屈せずに見ました」
ありがとうござます。国別で歴史物とか宮廷物とか見るとお国柄があってね
戸田:「勿論ね。日本だって、日本のサムライ物、あるいは近松門左衛門とか、日本の文化がそこにあるわけですから。歴史が好きですから、歴史は楽しく拝見します。
戸田さんのお仕事の話に近づいてゆきますが、じつはこの映画皆さんご存知かと思いますが原題が『淫乱書生』という、ちょっとまぁあのう…「何かしら?」というタイトルなんですが…
戸田:「私も『恋の罠』を見てくださいと言われまして試写室に行ったんです。チラシをいただいて、原題に『淫乱書生』ってあって、「え~!これ一体なんなんだ!」って思って、すごくびっくりしたの。でもこのポルノチックな題名だけど、映画はまったくポルノじゃないんです。だけども、内容的にそういうところがあるわけでね。大胆な題名だなと思ってね。私も初めて聞いたけど、日本語って難しいでしょ。「淫乱」って言葉使っちゃいけないんですって」
そうです。ありがとうございます。映倫さんに止められまして…
戸田:「映倫っていうのはね、見えた見えないだけじゃないのよ(笑)。字幕の言葉にもあれは差別だとか、いろいろ文句が付くのよ。「淫乱」って言葉がだめだと聞いてびっくりしちゃって…、「淫乱」はいいじゃない~。あまりにもひどいんじゃないかと、私は思いました」
官能的な台詞が多くて、翻訳の方も悩まれたみたいなんですけど、戸田さんが訳すときはどのように気を使うんですか?
戸田:「これも本当はイメージどおりそのもの的なことがずいぶん出ますでしょ。原文はそう言っているんだから、私は原文どおりに、日本語にそのような言葉があるなら使いたい。『恋の罠』はパスしているけど、映倫がダメとなれば若い人たちが見る映画には、そのような言葉は使えなくて、変えなければいけない。考慮しなければならないので、とても窮屈なんですけれど、でもわたしは原作、原文どおりに使うべきだと思います。でもそれにいろいろ制約がかかってくるわけです。
でも、映画はまだいいのよ。テレビはもっとひどい。映画は映画館に行くっていう自分の意思で行くから、まだ使っていい言葉がある。しかしテレビは不特定多数が見るから、言葉はもっと規制されます。本当にそれはつらいですね。ちょっとやりすぎの部分もあります」
もうちょと楽しんで見れれば、一番いいんですけれどね
戸田:「作った人はそこに、ある意図があって、そういう言葉を使っているわけです。それを我々が勝手に日本のルールだからといって変えてしまうのは、基本的にいけないと思います」
字幕は、台詞の言い回しと、字幕を見るタイミングが同じなので、抑制されてくるじゃないですか
戸田:「勿論勿論。そこはこの翻訳の一番特殊な部分で、喋っている間に読みきれる。映画が始まって一つ二つ字幕が出たら見てください。喋りだしたら出て、しゃべり終えたらぱっと消える。だから直訳なんかでできません。直訳したらね、画面中字になるわよ。完全に画面中字になって、あっという間に消えて何にも分らない。だから10~11文字のなかで押し込めてゆくわけです」
非常に高度な技術だと思います
戸田:「高度じゃないけど(笑)ルールですし、字幕が途中で消えたら何の意味もありません。とにかく時間の中に押し込めるというルールが一番特殊なことです」
そうするとみなさん、今日は見るところがいっぱいございますね。字幕の見方と韓国の文化ですよね
戸田:「そうね。でも映画を見るということが一番大事であって、字幕に意識がいってはいけないの。字幕を意識しちゃうということは字幕が下手なんですよ。いい字幕は絶対そっちに意識が行かないから。あたかも喋っている人が自分の喋っている言葉で全部喋っているって錯覚を起こしてしまうのが、いい字幕。なんかひっかかると、映画見ている意識がそがれてしまうということは、とてもいけないこと。そのへんのことはおうちに帰って、DVDで確認して、今は字幕に気をとられないでこの映画を楽しんでください」
意識しないで
戸田:「意識しないで」
お時間が短くて申し訳ないのですが、最後に先に見た戸田さんに『恋の罠』の見所をずばり
戸田:「私は基本的に映画は白紙で見るべきだと思っているんですよ。あまり、予備知識は入れない。それに邪魔されちゃいけない。映画は自分の好きなように見ればいいの。自分の好きなように楽しめばいいの。100人がつまらないと言っても、あなたがおもしろければいいの。逆に100人がすごいよって言っても、自分がつまらなければいいの。だから、自分の考えで見ればいいから、これが見所です!っておしつけるのはね、私としては非常にやりたくないことね。ただ、見所というかな?一つ言ったことの繰り返しですけど、韓国の恋愛映画という先入観を捨てて「え!韓国にもこういう映画があって、こういう男と女の描き方があるんだ!人間ってこういうことやるんだ」という新発見をね、さしてくれる映画なので、今まで思わなかったような人間関係、そこらへんを自分がなった気で・・・、映画って何が楽しいって、自分が全然知らない世界で、あたかもその人になった気持ちになってその人の人生のある時期を生きるという疑似体験が一番楽しいでしょ。それをやっていただくと、今まで経験したことがないような疑似体験が得られると思います」
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『恋の罠』
配給:エスピーオー
公開:2008年4月5日
劇場:シネマート新宿、シネマート六本木ほか全国にて