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『かつて、ノルマンディーで』ニコラ・フェリベール監督 インタビュー

2008.02.08

“私が撮る映画は、私が「世界がこうなって欲しいと」願う想いを投影しているんです”
出席者:ニコラ・フェリベール
合同インタビュー
Katute
今から30年前、助監督をしていた若き日のニコラ・フェリベールは、『私ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』という映画の撮影で、アリオ監督からキャスティングを任された。場所はフランス北西部のノルマンディー。主要な登場人物は地元の農民たちが演じた。30年の時が過ぎ、フェリベールはかつての映画に出演した人々を訪ねる。そこには普通の暮らしをしながらも、映画出演の思い出を大切にしている人たちがいた。
今回はドキュメンタリー映画の巨匠と言われ、また本作でもあるニコラ・フェリベール監督にお話を伺った。


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ドキュメンタリー映画を作る際にどの辺に気をつけていますか?またどれくら撮影されるのでしょうか?
■ニコラ・フェリベール監督(以降、ニコラ監督):「撮影の前に撮影する被写体と入念なミーティングや準備をすることはあまりありません。一つ例をあげるなら『ぼくの好きな先生』(02)で沢山の学校を回ったうえであの学校を選んだのですが、一度3時間くらいのミーティングをしただけでした。午前中に話し合いをし、午後には撮影をしました。私の映画は撮影しながら少しずつ構成されていき、そこで起きている事を撮影したいのでリハーサルも稽古しません。『かつて、ノルマンディー』の撮影もカメラ一台で行きましたし、出演者にはどんな質問をするかわざと伝えていなく、ぶっつけ本番で質問しました。それは“クオリティ”を保ちたかったからなんです。同じ質問では2度目の答えより、1度目に言った答えの方が新鮮ですからね。いつも映画を撮るときに被写体の事を知らなければ知らないほど良い物が撮れると思っています」
Noru1_3本作は以前の作品と違うアプローチの仕方をしたりしましたか?
■ニコラ監督:「撮影の仕方は以前の作品とほとんど変わりません。もし変わったと思うのであれば、それはこの作品が幾重にもの多様性があるからだと思います。使用した映像も過去作のであったり、ピエール・リヴィエールの映像であったり、自然の風景であったり、今回は多様性を駆使したかったので、以前の作品とは少し違うかもれません。以前の作品は一つの場所・物に留まっていたのですが、今回はそれを全て取っ払って撮影しました。もう少し開放的というか。紆余曲折や寄り道もありましたね」
紆余曲折があったからなのかもしれませんが、途中まで本作を映画にする経緯が伝わってきませんでした。最後にはその意味が分かったのですが。その核なる“意味”は撮影途中であがってきたのでしょうか?それとも最初からあったのでしょうか?
■ニコラ監督:「もちろんその“意味”を盛り込みましたが、それだけのために撮影したわけではないのです。沢山の理由がありました。ノルマンディーで撮影したピエール・リヴィエールの映画に立ち返りたい、それは私にとっても出演者として参加した地元の人達にとっても大切な思い出だったからです。私自身も立ち返ることで「映画を作ることは何かを賭けなければいけない」ということを改めて知りたかったし、それを観ている方にも知って欲しかった。一般的な映画では俳優・女優を起用するちょっと取り決めみたいなものがありますが、そうではなくて違う形でもできる、素人との人達が参加しても良い作品ができる事を伝えたかった。あとは“記憶”というアングルでこの映画を見せたかった。映画作りというは、それに携わった人に痕跡を残すものだし、存在の道をちょっと変えるものかもしれない。映画は人々の考えを豊かにするということも語りたかった」
本作は『私ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』という世間一般としてはあまり知られていない映画を軸に構築されていますが、それを軸にして映画を撮ることに不安はなかったのでしょうか?
■ニコラ監督:「確かにあまり知られていない映画を中心に映画を作ることはひとつの挑戦と言えます。しかもこの映画を観てない、原作本を読んでいない、ルネ・アリオ監督を知らない、となると一般のお客さんに観ていただけるか不安はありました。ただ『私 ピエール・リヴィエール・・・』を観ていない方にとっての方が、『かつて、ノルマンディーで』をよりミステリアスで興味がそそられる作品に思うのではないでしょうか。何の情報も知らないということが逆に想像を豊かにしてくれると思います」
『私 ピエール・リヴィエール・・・』は観ていなかったのですが、確かにピエール自身に興味を持ちました。
■ニコラ監督:「そうやって言ってくれるのが一番嬉しいですね。私のアプローチが完璧に間違ってはいないことを意味しますから。逆説的になるかもしれませんが『私 ピエール・リヴィエール・・・』は『かつて、ノルマンディーで』の中心であるようでいて、単なる口実でしかないのです。それは何かに開いていく“扉”のような道具として、ピエールの作品があって、扉の先には“映画”があって欲しいからなんです。映画を通して人生や心の移り変わりを知ることができ、また語ることができます。「ひとつの列車はもうひとつの列車を隠している。気をつけろ」という看板があるのですが、映画もそうでひとつの映画は多くのストーリーを隠しているかもしれないのです。ですので『かつて、ノルマンディーで』では『私 ピエール・リヴィエール・・・』を軸にしていますが、他にも色んな意味が込められているのです」
Noru2『私 ピエール・リヴィエール・・・』でピエール役を演じたクロード・エベールは中々連絡が取れず探すのが難航したとお伺いしてます。どのように彼を見つけたのでしょうか。
■ニコラ監督:「撮影開始当初は彼が生きているのかどうかも全く分かりませんでした。ただ実は撮影開始から1週間が経つまでクロードの事は忘れていました(笑)。他の人の撮影が忙しくて。そんな時ある人から「これが彼のE-mailアドレスだよ」と渡され、メールを書いたところ3日後に「3週間後にヨーロッパに行くから、その時に」と返信があり、撮影に入りました」
出演者の方々が30年も前のことなのに、まるで昨日のようにニコラ監督からの出会いから覚えていますよね。映画に出演したことである人は俳優を目指したり、ある人は映画が原因かわかりませんが娘が病気になる。彼らが映画に出演したことがどのような影響を与えたとお考えですか?
■ニコラ監督:「彼らの記憶にあれほど深く記憶が刻まれているのは、映画に出演することが彼らにとって予期せぬ出来事で、またアドベンチャーだったからではないでしょうか?俳優ではあればここまで深く刻まれることはないと思いますね」
監督にとってのドキュメンタリー対する想いとは?
■ニコラ監督:「私自身は人間に対して非常にネガティブで暗いイメージを持っているんです。人間はとても残虐で下劣で卑怯で、一番醜いことをやってのける本質を持っています。生れ落ちて人間は善だとは思っていません。本能のままに生きないようにするのが教育であり、それが社会の適応だと思います。そんな人間がうごめいている世界の中で生きていくにはどうすればいいのか?私が撮る映画は、私が「世界がこうなって欲しいと」願う想いを投影しているんです」
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『かつて、ノルマンディーで』
配給:バップ、ロングライド
公開:2008年2月9日
劇場情報:銀座テアトルシネマほかにて公開
公式HP:http://www.nicolas-movie.jp/normandie/