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『マリと子犬の物語』 船越英一郎 インタビュー

2007.11.22

“冷たく悲しい涙が流れるのではなく、あったかい涙が流れる作品”
出席者:船越英一郎
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2004年10月23日、午後5時56分に発生した、マグニチュード6.8の新潟県中越地震。闘牛や錦鯉の産地として名高い山古志村も、幹線道を寸断され完全に孤立、壊滅的な被害を受けた。地震の当日、石川家で3匹の子犬を出産した母犬マリ。地震後、倒壊した家屋の下敷きになった石川家の家族を子犬の面倒をみながら励まし、救助ヘリでやって来た自衛隊員を誘導し、救出に成功する。だが、人命優先のため、マリと子犬たちは現地に残されることになり…。
自分の命がどうなろうと、家族の事を一番考える理想の父親役を演じた船越英一郎さんにお話を伺った。


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まず初めに本作をご覧になった感想を聞かせてください
■船越英一郎(以後、船越)「自分が出演した作品は大体観終わった後に“怒り”が込上げて来ます。それは「俺はなんでこんな芝居しか出来ないのだろう。そこは違う芝居だろう!」とか、そんな反省や不満が怒りに変わっちゃうんです(笑)。だた、この映画だけが最初から号泣しました!恥ずかしいくらい泣いてしまいました。自分が出演した作品では初めてかもしれないです」
それはご自身の演技というよりも、映画全体を通してでしょうか?
■船越「まぁ、子供と犬にやられたって感じですかね(笑)。僕が出演している事がどこかに飛んで行っちゃうくらいの“作品力”のある映画ですよ」
Mari4以前から船越さんは犬がお好きだったのでしょうか?
■船越「元々柴犬飼っていたんですよ。17年位生きた犬でして、実家で飼っていて途中で家を出たもので、実際に暮らしたのは7年位ですかね。とても柴犬とは馴染みが深いです」

今回動物と自然が相手の撮影でしたね。撮影で苦労されたこともあったのでは?
■船越「とにかく現場全体のテーマが「いかに犬にストレスを与えないか、負担をかけないで撮影をするか」でした。犬にストレスをかけない方法は撮影を急かさないで、時間をかけるしかないんですよ。この映画は3ヶ月という長期にわたっての撮影でして、僕が犬と添い寝をするシーンなんかは実際10秒程度なんですがそのシーンを撮るために丸一日掛かりました。ただ犬に寝てもらうまでひたすら待つんですよ。ドッグトレーナーの方が添い寝してスタッフ全員“シーン”としている中で、「はやく寝てね(小声で)」と言いながらさすり、みんな固唾を飲んで寝るのを待って「寝たぞ!ヨーイ、スタート(小声で)」という感じで撮りました(笑)。そんなときに限って“カンッ!”と物音がね・・・、犬が起きてまたそこから1時間・・・。そんなのの繰り返しで、中々撮影が進みませんでした。犬だけのシーンも結構あってそれも中々苦労されたようです」
劇中に3回ほど犬が寝ているシーンがあると思うのですが、相当ご苦労なされたのでは?
■船越「最初に出てくる原っぱで犬と娘(石川彩 役:佐々木麻緒)が添い寝しているのを僕らが見つけるシーンでは娘の方が早く寝ました(笑)。長時間待ったようで、疲れてクタッっと。本当に寝てるんですよ」
本当に犬が可愛らしく映っている映画ですよね。船越さんが犬とのシーンで一番気に入っているのはどのシーンでしょうか?
■船越「色々あんるんですけどね~。やっぱり再会のシーンでしょうかね。ネタばれしてしまうとあれなので多くは言えないんですけど。やはりあのシーンも時間がかかりましたよ。何日もね(笑)」
今回現地新潟での撮影でしたが、実際に現地の方もエキストラとして撮影に参加されたようで
■船越「映画っていうものは、監督、スタッフ、キャストで作り上げるものだと思っていたのですが、この映画に関しては監督、スタッフ、キャスト、そして新潟のみなさんと作り上げた映画だと思っています。長岡にお邪魔している間も、毎日200~300人のエキストラの方とご一緒していたんですね。体育館のシーンは地元の『三条高校』全体をお借りして撮影しました。まだまだ4月の頭で寒くて、映画の撮影ってのは早朝から深夜に及ぶものでして、いつ終わるか分からない現場なのにも関らず誰一人グチを溢すことなく、むしろ僕たちキャストやスタッフにご自身の被災体験を熱心に語ってくれました。
生の声をシャワーのように浴びながらの撮影でしたので、大変臨場感がある撮影だったと思います。こらから本作をご覧になる方が、説得力のある芝居だなと思っていただけたのならば、それは新潟の皆さんにいただいた別の力なのかもしてないですね。この映画にかける皆さんの想いを物凄く強く感じながら、一緒にお仕事をさせて頂きました。
僕もスタッフもそうなんですが、映画が完成することで辛い経験をなぞらせる事になるのではないだろうか? まだまだ生々しい記憶がある中で新潟の方がどのように受け止めてくれるのだろうか? と非常に不安だったのですが、実際に皆さんと接すると「全く心配してくれるな、自分達は時と共に心の中から中越地震の記憶が薄れてしまうのが一番辛いし怖いことだ。地震大国日本ですから、いつ誰の身に降りかかるか分からないので、そんなときにこの映画を通じて何かの一助になれば、皆さんの励ましになったり、勇気になったり、それからヒントになったりして欲しいんです。」と異口同音に皆さんから聞かせてもらいました。僕がこの映画に最初に向き合ったときの不安は全部吹き飛びましたね! 逆に使命感みたいものがでて来て、いい映画を作るのは当然のことなんですが、一人でも多くの方に観ていただくのが新潟の皆さんの想いを伝えるメッセンジャーになれるんじゃないかと思える現場でした」
Mari2地震のシーンは本当に恐怖を感じました。どのように撮影されたのでしょうか?
■船越「あれは色んなパターンがあるんですけども、例えば宇津井健さん演じるお爺ちゃんと娘が被災するシーンは、かなり大きな地震を起こすマシーンの上にセットを組んで実際に揺らしているんですよ。防災訓練などでしようされる機械は“横揺れ”なんですが、この映画に使用したのは日本で初めてなんじゃないでしょうか、“縦揺れ”を再現できる機械の上にセットを組み立て揺らしました。そういうのもあれば、僕と松本明子さんが被災する美容室のシーンは実際には揺らしていなくて、カメラを揺らして、後でエフェクト処理をしているんですけど、全部ピアノ線というか細い目に見えない糸で、シャンプー1つから何から何にまで全部に糸がついていて、何十人というスタッフが一斉に“バンッ!バン!バンッ!”と一人ずつ引いて地震を再現しているんですよね」
父親の優一を演じるにあたって、心がけたことなどありますか?
■船越「やっぱり子供と犬がメインの映画ですので、なるべく自分の中の過剰な演技を抑えようと心がけていました。子供達がピュアなお芝居というか、実際にそこで生きているわけですので、我々が変に汚れたお芝居をすると作品自体を汚してしまうのでなるべく僕たちも演じる、あるいはスクリーンのお客さんに対して演じるというのを排除していました」
Mari1亮太、彩を演じた広田亮平さん、佐々木麻緒さんとの競演のご感想をお聞かせください。
■船越「息子と娘は天才ですよ(笑)。麻緒は本読みの時から感情が100%出来上がっているんですね。とても本読みとは思えない感じで、今ここで本番、今ここで撮影が出来る状態なんです。しかもそのお芝居に非の打ち所がない(笑)。誰も演技指導していないのに彼女の中で完全に自分の役が出来上がっているんです。これはすごい事ですよ、中々麻緒のような子役はいないんじゃないでしょうか。相対する亮平の方はピュアでナチュラルで天真爛漫な子で、ただ優しい子でね、いつも妹役の麻緒をかばい気遣いながら自分の感情を押し殺して、まさに映画の中の亮太そのもののなんですよ。二人は過去に競演が何度かあったので最初から兄弟みたいな関係が出来ていました。僕自身も役作りより家族作りをして行くのを念頭においてあの二人と接していました。あの二人はいいコンビネーションですよ」
全体を通してのテーマが“家族の絆”だと感じました。船越さんはどのようにお考えでしょうか?
■船越「一番のテーマは“家族の絆”だと思うのですが、護るべきものがあると人も犬も含めて全ての生き物は「どこまでも強くなれるんだ!」というのがもう一つのテーマだと思います。それとこの映画が素敵な理由として登場人物、犬も含めて誰一人として自分の為に頑張っていないんです。必ず自分以外の誰かの為に頑張っているんですね。お爺ちゃんは孫を護る為に、父親はもちろん子供達を、お兄ちゃんは妹を、妹はマリを、マリは自分の子供達、そして自分に愛情を持って育ててくれた家族を護りたい。みんな誰かの為に命がけで頑張っています。これがこの映画の見所であり魅力ですね」
Mari3最後にこの映画に出演する事で船越さんが得たものはなんでしょうか?
■船越「新潟のみなさんに教わったことでもありますが、「人は一人じゃないんだ。支えあって助け合っていけば、どんな困難があってもその先には必ず希望があるんだ。」恐らくこの映画をご覧になっていただけるとわかるのですが、この映画は悲しい映画ではないんですよ。中越地震という大災害を題材にしているのですが、実は観終わった後には必ず「よおおおし!自分も頑張ろう!」という爽やかな勇気・希望が沸いてくると映画だと思います。確かに泣ける映画ですが、ただその涙は悲しく冷たい涙じゃなく、あったかい涙なんです。「悲しくないのに涙ってこんなにも出るもんなんだ!」と思えます。これは素晴らしい事ですよね」
確かに観終わった後、頑張る気持ちをもらえたような映画でした。本編の後半にある父と息子のやり取りで泣きました!もちろんあったかい涙です。
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『マリと子犬の物語』
配給:東宝
公開:2007年12月8日
劇場情報:日劇2ほか全国東宝系にて
公式HP:http://mari-movie.jp/
(C)2007 「マリと子犬の物語」製作委員会
取材・文:若