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『未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』松下奈緒インタビュー

2007.09.18

名曲の中のキャラクターを演じる苦労と、そこで得たものとは?
日時:2007年8月1日(水)
場所:ソニー・ミュージック乃木坂スタジオ(東京・赤坂)
出席者:松下奈緒
『未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』松下奈緒インタビュー
DREAMS COME TRUEの「未来予想図」「未来予想図Ⅱ」――多くの人の胸に、記憶に響き渡ったこの名曲の世界が、遂に映画化される。それが10月6日より公開予定の『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』。2つの曲の歌詞をもとに、1人の女性が恋と夢に悩みながら未来へと進んでいく姿を描いた物語だ。この中で主人公の宮本さやかを演じた松下奈緒さんにインタビュー。名曲がモチーフの作品に出演したことへの想いや、宮本さやかを演じる上での苦労などについてうかがいました。


ドリカムの「未来予想図」「未来予想図Ⅱ」はご存じでした?
Cheese_070928_27■松下「知っていました。初めて聴いたのが幼稚園の時で、その時は歌詞の意味とかはわからずに聴いていたんです。で、物心ついた頃に聴いてみたら「女性の気持ちをなんて上手に歌った曲なんだろう」と思って。そういうことがわかってすごく嬉しくて、それから大好きになりました。でもまさか自分が今回『未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』という映画に参加させていただけるとは思ってなかったんで、ビックリしましたね」
“女性の気持ちを上手に歌っている”とは、具体的にはどんな部分ですか?
■松下「“私はこうしてほしいんだけど……”っていう女性の希望を、嫌味なく伝えているところ。女性の目線で、その相手の男性に対して「こういうことをしてほしいんだよ」ということを、吉田美和さんの歌詞が代弁してくれているような。私はそんな歌だと感じました」
出演のオファーを受けてビックリしたとおっしゃっていましたが。
■松下「まず「未来予想図」が映画化されること自体に驚きましたし、ましてそこに自分が携われることにもビックリしました。「未来予想図」は本当に皆さんがご存じの名曲なので、その曲を映像化してそこにキャラクターが生まれた時、「私が演じるキャラクターと皆さんの思っているそれが違ってしまうかもしれない」という不安が最初はありましたね」
となると、宮本さやかというキャラクターを作るのは難しい作業だったのでは? どう役をつかんだのでしょうか?
Cheese_070928_28■松下「こういう普通っぽい役は全く今回が初めてだったので、役柄をつかむのが大変でしたね。さやかは何かが突出していたりとか、すごく意地悪だったりとか、そういう強い役ではなく、影で支えている芯の部分は強いんだけれども、それを悟られたくないと思っている女性。なので台詞ではなく表情で何かを伝えなきゃいけないところが多くて大変でした。恋愛の話についても(恋人)の慶太のことを引きずるとか、引きずらないとか……そういうことはト書きとして書いてはあるんですけれども、それを見ている人に伝えるのにはどうしたらいいのかなっていう。そこが一番難しかったですね」
台詞以外の演技力が求められたんですね。
■松下「それが一番大変でしたね。あとは本当に“楽しいことは楽しい”と思える気持ちとか、弱い部分を素直に見せられない――母親や好きな人に対して弱い部分をオープンにはしたくないところとか、そういう部分を全面的に出せたら、それが一番共感してもらえる部分なのかなと思いながらやっていましたね。こういうギャップや孤独な部分は、女性なら誰もが持っていると思うんです」
さやかを演じるために、事前に役作りしたことは?
■松下「今回は比較的ストーリーの順番通りに、10代、20代、30代と撮っていったので、撮影が進むに連れてさやかもできあがっていく感じでした。それを一番心がけていたし、実際にそういう風になりましたね。芝居をしているという感じではなくて、一人の女性の成長日記を見ているような、そういう気持ちでしたね。だから役作りは、今回はあまりしていないんです」
松下さんとさやかが撮影を通してどんどん近づいていったんですね。
■松下「私が近づこうとしていたのが、彼女が近づいてきたのか、自分でもわからなかったんですけど、そういう気持ちでできました。すごくさやかのことが好きになりましたし。やっぱり似ている部分もあったりしましたしね。台本で読んだ段階では「これはちょっと違うかも?」と思うシーンも、いざ自分が現場に入って演じてみると、「ああ、こういうこと良くある!」と思ったりとか、そういう発見もすごくありました」
松下さんとさやかはどんなところが似ていました?
Cheese_070928_29■松下「さやかは出版社に勤めたいと思っていたのに、嫌々印刷会社でずっと働いていて。で、そこで「もう辞めたい、ダメだ」と思ったときに、踏ん切りよくスパッと辞められる勇気は私にはちょっとないなと思ったんですけど。でもいざエンジンがかかって、自分がやりたいと思ったこと突き進むとなると動きが早い部分は、自分にどこか似ていると思いました。「決めたことは守る」というか」
10代から30代まで、幅広い年代でさやかを演じられましたが、成長につれて変化を付けなければいけなかったと思います。意識して自分で変化をつけた点は?
■松下「人には大切な人っていっぱいいると思うんですけど、その時々の大切な人との関係で、気持ちって変わると思うんです。さやかは10代の頃は本当に大事な人――慶太が傍にいて、20代で彼がいなくなってしまって。その恋人がいない時に心の拠りどころになったのは母親でした。そんな風に大切な人との関係が変わることで感じる気持ちを大事にして、その変化が濃くなるよう気をつけました。そういうことを人事ではなく考えさせられる台詞もあったんです。「“ありがとう”ってちゃんといえる」っていう台詞。それはなんだか自分にも言われているような気がして、すごく印象的でした」
さやかを演じることで、自分の中にも跳ね返るものがあったんですね。
Cheese_070928_30■松下「そうですね。松坂慶子さんが演じられたお母さんから手紙をもらうシーンがあって、その手紙には「生まれてきてくれてありがとう」といった内容がびっしりと書かれているです。それは、本当に自分の母親からもらったものかのように、ぐっとくるものがありました。その撮影が終わってから、母親にいろんなことを話すようになったんですよ。「今日こういうことがあったよ」っていうのを、素直に話そうって思えるようになって。当たり前のことなんだろうけど、これまではそれが素直にできない自分がいて。でも今回の撮影での小さなきっかけのおかげで、自分も少し変われたと思います」
今作ではバルセロナでのロケがありましたが。
■松下「卒業旅行に行くシーンとか諸々を撮りに行ったんで、2週間くらいバルセロナにいました。サグラダ・ファミリアを見に行ったりとか、他のガウディの建築物を見に行ったりしたんですけど、ロケで行ったとはいえやっぱり感動するんですよね。それまでガウディのことをあまり意識したことがなかったんですけど、この映画で初めてガウディに出会って、すっごく勉強したくなりましたね。それぐらい感極まるものがありました」
初めてサグラダ・ファミリアを見たときの感想は?
■松下「「え、ここにあるの?!」ってくらい街中にあって、なんとも言えない色をしていて。すっごく表情がある建物でした。正面と裏でぜんぜん表情が違うんですよ。それに百年以上も前に作り始められて、それがちゃんと今も続けられていて、未来に向かって完成させようとしていること自体が美しいものだなと思いました」
サグラダ・ファミリアはガウディの生前には完成させられませんでしたが、困難を乗り越え、今なお彼の遺志を人々が継いで建設が進められています。松下さんも女優やピアニストなど、他の人が進もうと思ってもなかなか進めない困難な道を進んでいますね。そこにはどんな想いがあるんでしょうか? またさやかと同じように、自分の夢と恋、どちからを選択しなければならなくなった場合、どうしますか?
■松下「女優だったり、ピアノ弾いて歌ったり、いろいろなことをやらせていただいていますけど、基本的にすべて好きなことなんです。全てにおいて「表現する」とか「伝える」といったことが根底にあって、そこが好きでやみつきになっているんですよ。それに自分が完璧ではないことはよくわかっているし、その未完成の段階からどうすればいい方に近づくかとか、そういうこと考える過程もすごく好きなんです。で、これだけいろいろなことをさせていただくと、恋なんていい話はないわけで(笑)。「恋か仕事かどっちかを取れって」言われれば誰しもが絶対迷うものだと思うんですけれども、この映画を観ていただくと、その答えがわかるんじゃないかなと思います」
サグラダ・ファミリアはスペイン内乱などにより仔細な設計図や資料が残されておらず、建築家たちがガウディの思想を推測しながら現在も建築を進めているのだそうです。それは未完成の自分の「未来予想図」を想像しながら前へと進む松下さんと、どこか重なる部分があります。サグラダ・ファミリアの建築家と松下さん、どちらもおそらく「好きなことをしている」からこそ、先の見えない中を手探りでも進めるのではないでしょうか? そんなことを思わせてくれるインタビューでした。
『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』
配給:松竹
公開:2007年10月6日(土)
劇場情報:全国にて公開
公式HP:http://www.miraiyosouzu.jp/
(C)2007映画「未来予想図」製作委員会
■あらすじ
大学生のさやかは学生映画の制作をきっかけに、慶太と出会った。建築家を目指して迷いなく進む慶太にさやかは惹かれ、やがて2人は恋人同士に。卒業後、慶太は設計事務所に、さやかは印刷会社に勤め始めるが、出版を希望していたさやかは今の仕事に満足できない。そこで一念発起し出版社へと転職し、自分の夢の第一歩を踏み出す。そんな時、慶太に海外転勤の話が持ち上がり……。
■プロフィール
松下奈緒
1985年、兵庫県生まれ。2004年にテレビドラマ「仔犬のワルツ」で女優デビュー。その後、CMやドラマに次々と出演。『アジアンタムブルー』(06年)で映画デビューを果たす。音楽にも精通し、東京音楽大学に通うかたわら、ピアニストとしても活動。06年にはピアノアルバム「dolce」をリリースしたほか、映画『ピアノの森』(07年)の主題歌「Moonshine~つきあかり~」も手がけ、10月10日にはセカンドアルバム『Poco A Poco』もリリース予定。
取材・文:井上真一郎