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『自虐の詩』堤幸彦 監督インタビュー

2007.09.18

“愛とは人を100%認めること。なかなか出来ることじゃないけどね”
2007年8月29日
出席者:堤幸彦(監督)
『自虐の詩』堤幸彦 監督インタビュー
『ケイゾク』『トリック』と、時代を象徴するようなシリーズ作品を世に送り出すヒットメイカーかと思えば、一方では『明日の記憶』『恋愛寫眞 Collage of Our Life』など、ずしんと重い作品も手がけている堤幸彦監督。
新作の『自虐の詩』は、ベストセラーコミックというヒット性のある素材をイタくて悲しくて、温かい涙を流せる作品に料理してくれた。そんな堤監督に新作を通して、胸に秘めた思いを伺った。


この作品を撮るきっかけは?
■堤幸彦(以下:堤):「原作は連載中から知っていて、とても不思議な佇まいの作品だなと思っていたのですが、文庫化した時に通して読んだら、バックヤードの広い世界観を持った、素晴らしい愛の作品だと分かりました。実際、監督をということになると、僕で出来るのかなと不安な所はあったんですが、『ケイゾク』からの盟友のプロデューサーから話を頂いて、引き受けさせて頂きました」
幸江役の中谷美紀さんは、『嫌われ松子の一生』のイメージが強いですが、似た作品になってしまうとは考えませんでしたか?
■堤:「考えましたよ。『嫌われ松子の一生』は、素晴らしい作品だと思っていて、あんな作品は僕には撮れないですから。だから一度はお断りしようと思ったんですけど、でも、舞台や環境を原作と変えてもいいなら出来ると思いました。舞台を昔から気になっていた大阪の飛田にして、幸江の子供時代を気仙沼にして。気仙沼から飛田に向かっていくという背景があれば、少し差別化して出来るかなと思いました。とにかく、『嫌われ松子~』は名作なので、とても意識しました」
中谷さんはノーメイクだそうですが?
■堤:「完全なノーメイクではないですが、相当ナチュラルですね。」
阿部寛さんが演じるイサオが見れば見るほど愛おしく思えてくるんですが……(笑)
■堤:「(笑) 無口で掴みどころのない正体不明な感じで始まるのですが、なぜ彼がここにいるのか、ということが語られていくにつれて、観ている人の心理が自然に変わっていくから、全体を通して変わらない演技をして欲しいと言いました」
『自虐の詩』堤幸彦 監督インタビューちゃぶ台をひっくり返すシーンが華やかで絵になっているのですが、実際に阿部さんがひっくり返しているんですか?
■堤:「実際に彼がやっています。選手権があれば日本一になれますね(笑)。狙ったところに狙ったものを落とすことが出来ますしね。ここに味噌汁を落として、って言うと、しばらく考えて“でえい!”って(笑)。すごく上手いですよ」
練習されたんですか?(笑)
■堤:「ちょっとやってましたね。勘のいい方なので、すぐにやり方を掴んでました」
何回くらい倒したんですか?
■堤:「1シーンにつき、1回か2回です。ほぼ一発OKでした。失敗すると大変なんですよ、片付けるのが(笑)」
監督ご自身が気に入っているシーンは?
■堤:「一番力を入れたのは子供時代ですね。あまり有名ではない方をオーディションしたのですが、演技的にもチャレンジなところもあり、ある種、賭みたいなところもあったんですが、階段で殴りあうシーン、別れるシーン、方言など、本当に頑張ってくれて。誰も知らない顔だからこそリアル感が出ていて、とてもいいシーンになったと思います」

監督はどんな時に幸せを感じますか?
■堤:「狙っていた以上にいいカットが撮れて、ああよかった!と思った瞬間、寝てしまうんですけど(笑)、その時ですね。撮影の合間の10分寝。そんな小さな幸せの中で年をとっていくんですね」

では、監督が考える愛とは?
■堤:「人を100%認めることですね。男女においても、人と人との関係でも。存在を100%認める、これは出来ないことですね。人間には防衛本能とかいろんな意識があるから、なかなか出来ることじゃないけど。自分にとっての悪人に対して認めることは出来ないと思うけど、相手を自分と同じ人間だと認めることが重要だし、そこを繋ぎ止めることが出来るかどうかで皆悩み苦しみ、いろんな法やルール、宗教があると思うんですが、僕は愛とは人を100%認めることだと思います」
最後にメッセージをお願いします。
■堤:「つらいことが多い世知辛い世の中で、2時間だけでもほっとしてもらおうという思いを込めて作りました。出演者一丸となって素敵な作品が出来たと思います。是非劇場でご覧下さい」
『自虐の詩』
配給:松竹
公開:2007年10月27日
劇場情報:シネクイント、シネ・リーブル池袋ほか全国にて公開
公式HP: http://www.jigyaku.com/
(C)2007「自虐の詩」フィルムパートナーズ
■あらすじ
ひなびたアパートで暮らすイサオと幸江。無口で乱暴なイサオは仕事もせず、毎日酒を飲みギャンブル三昧。幸江はラーメン屋で働き、イサオに尽くしていた。しかし、幸江が妊娠していることが分かり…。
■人物紹介
『自虐の詩』堤幸彦 監督インタビュー堤幸彦
1995年愛知県出身。99年ドラマ「ケイゾク」(TBS)、00年「池袋ウエストゲートパーク」(TBS)「トリック」(ANB)と時代を象徴する作品を世に送り出す。映画監督としては、『バカヤロー!私、怒ってます/英語がなんだ』(88)でデビュー。代表作は『ケイゾク/映画Beautiful Dreamer』(00)『明日の記憶』『トリック劇場版2』(06)『包帯クラブ』(07)などがある。
取材・文: 南野望里子