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『エディット・ピアフ ~愛の讚歌~』オリヴィエ・ダアン監督来日インタビュー

2007.09.18

“フランスが生んだ名歌手ピアフの波乱万丈の生涯をエモーショナルに描く!”
日時:8月23日(木)
場所:パークハイアット東京
出席者:オリヴィエ・ダアン監督
※WEB媒体合同取材
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「愛の讚歌」や「バラ色の人生」で世界的に知られる大歌手エディット・ピアフの壮絶な人生を描いた『エディット・ピアフ ~愛の讚歌~』の日本公開を前に、脚本も手がけた監督のオリヴィエ・ダアンが来日した。貧困と孤独の子ども時代から47歳でこの世を去るまでのドラマチックな生き様を、事実を踏まえながら感情面を中心に組み立てたという本作について、その熱演ぶりに高い評価が集まる主演のマリオン・コティヤールの成り切り演技から、日本人撮影監督テツオ・ナガタのつくり出す柔らかい光の映像までたっぷりと語ってくれた。


最初は脚本執筆に乗り気ではなかったそうですが、それはなぜですか?
■オリヴィエ・ダアン監督(以下:監督)「最初は脚本を自分で書くはずじゃなかったんだ。僕は書くのが嫌いなんだよ。閉じこもって一人で作業するのは苦手でね。どちらかと言えばみんなで一緒に仕事をするのが好きなんだ。だからプロデューサーには別の脚本家を見つけてほしいと依頼をした。でも、用事でロサンゼルスに滞在したときに最初の10頁ほどを書いてみて、それをプロデューサーに渡したら、気に入ってくれて、続きも書いてくれと強く言われてね。それで僕が書くことになったんだよ」
脚本執筆にあたって、ピアフを実際に知っている人からリサーチをされましたか? また、本作をご覧になったピアフを実際に知っている人の反応はどんなものでしたか?
■監督「執筆中や情報収集の時点ではピアフを実際に知る人とは会わないようにしていたんだ。ただ、書き終わった後に、ピアフと交流のあった人と会ったよ。その中でも、20年近く彼女の親友だった人に書き上がったシナリオを送ったんだ。僕としては、色々と調べたから事実の部分に関しては自信があったんだけど、彼女の素顔に迫る心理的な描写については、実際にピアフを知る人に理解してもらえるかどうか不安だったんだ。だから、その人からたくさんの褒め言葉をもらったのはうれしかった。特にほんとうにエディット・ピアフを見ているようだ、ピアフそのものだという言葉がうれしかったね。出来上がった作品を観てくれたピアフの知人には、色んな意味で正確だし、とても感動したと言ってもらえたよ」
ピアフは47歳で亡くなったとき、外見はすでに70歳ぐらいでした。この役を30歳のマリオン・コティヤールに最初から一人でやってもらおうと考えていたんですか? マリオンの老け役はすごかったです。役作りに関しては彼女に任せたんですか? それとも具体的に支持したことが反映されているんですか?
■監督「最初から一人の女優で行こうと決めていたよ。死が近づいているシーンではヘアメイクの力を随分借りた。髪なんて随分抜けている状態だったからね、特殊なカツラを使ったんだ。腰が曲がっているのも詰め物をしているんだよ。そういった色んな力を借りて、マリオンは老女を演じ切ったんだ。彼女には自分をトランス状態に持って行くよう特別な支持を出した。マリオンはとても感性に秀でた女優で、僕の支持を信頼してくれたし、僕も彼女を信頼していた。僕の映画ではリハーサルはやらないんだ。だから、現場で役作りをして、そのまま演じてもらうんだよ」
そのマリオンが歌うシーンがとても素晴らしかったです。他の映画では吹替に違和感がありますが、本作ではマリオンがピアフそのもので、ほんとうに彼女が歌っているようにしか見えません。どのように撮影されたんですか?
■監督「やはり今回は歌手の人生を描いているわけだから、歌うシーンには力を注いだんだ。確かに他の映画では吹替の映像がうまく行っていなくて違和感を覚えることもあるからね。僕としては完璧なものに近づけたかった。マリオンにとっても一番苦労した点だと思う。口を合わせて歌うというのはね。彼女の努力も大変なものだったし、編集の段階でも、吹替編集の専門家を呼んで25分の1や24分の1の単位で細かく合わせるという努力をした結果なんだ」
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ピアフの親友モモーヌ役のシルヴィ・テステューも素晴らしい演技でした。彼女の起用理由を教えてください。また、ピアフと違って彼女についての資料は少なかったのではないかと思いますが、役作りはどのようにされたのですか?
■監督「シルヴィ・テステューだけでなく、今回、主役のマリオンの周りを固めたのは全員が主役を張れる一流の俳優ばかりなんだ。シルヴィのことは今までの出演作を観ていて、一度一緒に仕事をしたいと思っていたんだよ。彼女はとても才能があって、自然に演技ができるんだ。モモーヌについてはある程度資料が集まったから、それに基づいた事実に即しているんだけど、あとは自由に演じてもらった。それはシルヴィに限ったことじゃなくて、どの役も事実に即した上で、俳優の想像力に任せて演じてもらう部分が多かったんだ。シルヴィとはまた一緒に仕事をする機会があると思うよ」
本作は女性の生涯を描いているので、多くの女性の心を揺さぶると思います。ピアフが海岸で編み物をしているシーンで、記者がやってきて女性にメッセージをと求められて「愛しなさい」と言いますね。本作を完成させたことで監督自身から今を生きる女性に向けてのメッセージというのはありますか?
■監督「(ちょっと考えて)同じだよ。ピアフは当時としてはとてもモダンな女性だったんだ。わずか17歳で、パリの中でもかなり住みにくい場所で独立して生きていたんだからね。生涯を通じて他人に支配されることなく思うように生きたんだ。だから、彼女は良いロールモデルになると思う」
撮影監督の永田鉄男さんについて、記者会見ではフランス人とは違う感覚をもたらしてくれることを期待したと仰ってましたが、彼によってもたらされた東洋的というか、フランス人と違う感覚とは具体的にどんなものでしたか?
■監督「完成した映像を観て誰の力でこうなったのかというのを分析するのは難しいんだけど、ナガタが参加してくれたことで柔らかい光の映像ができたと思う。その柔らかい光に僕自身とても感銘を受けたし、作品にも合っていると思う。彼のつくり出す光の世界が東洋的なのか日本的なのかは判断がつかないけれど、彼のバックグラウンドである日本の文化が大いに影響していることは間違いないだろうね。
彼のつくり出す光は洗練されていて上品なんだ。きっと彼の持つ独自の文化を背景にしているんだと思う。でしゃばり過ぎず、繊細な光なんだ。たとえば、床にティッシュをちりばめて、それにライトを反射させて俳優の顔に当てて柔らかな光をつくり出すとか。優雅だよね。ただ、そこら中にティッシュが散らばっていたから踏まないように歩くのが大変だったけど(笑)」
47年のピアフの生涯を描くにあたって時代を縦横無尽に行ったり来たりさせたのはなぜですか? 最初は着いて行くのが大変なんですが、実際に私たちが過去を思い出すときと同じなんですよね。だから、まさに素晴らしい手法だと思いましたが。
■監督「そうなんだ。人の記憶というものがどう機能するかを見せたかったんだよ。たいして重要だとは思えないような記憶がよみがえってくることってあるし、順番だってバラバラというのは誰もが経験していることだよね。今回は感情を中心にストーリーを組み立てていったから、観る方としては大変だったかもしれない(笑)。でも、理解しようとしなくていいんだ。論理的であることより感情に任せて観てもらいたいんだよ」
前日の記者会見とは一味違う帽子のコーディネイトで登場! 小粋なオリヴィエ・ダアン監督でした。
『エディット・ピアフ ~愛の讚歌~』
配給:ムービーアイ エンタテインメント
公開:2007年9月29日
劇場:有楽座ほか全国にてロードショー
公式HP:http://www.piaf.jp/
■あらすじ
1915年にパリのベルヴィル地区で生まれたエディットは幼くして両親と生き別れ、祖母が営む娼館に身を寄せる。一度は失明したものの奇跡的に回復し、後に大道芸人の父に引き取られてからは、日銭を稼ぐためにストリートで歌うようになる。やがて名門クラブのオーナー、ルイ・ルプレに並外れた才能を認められ、歌手としての人生が始まる。
■プロフィール
Cheese_070928_22オリヴィエ・ダアン
1967年生まれ。マルセイユの美術学校で学び、美術の修士号を持つ。ザ・クランベリーズ、ズッケロをはじめ数多くのミュージック・ビデオを手がけ、94年に映画監督デビューを果たす。代表作に『クリムゾン・リバー2/黙示録の天使たち』など。
取材・文:齊田安起子