『休暇』西島秀俊インタビュー

2008.05.16

“何を考えているのかさっぱりわからない男だって演じることはできます!”
出席者:西島秀俊
『休暇』西島秀俊インタビュー
死刑執行時の落ちてきた体を支える〈支え役〉を買って出る代わりに1週間の休暇を得て新婚旅行に出かける中年刑務官の苦悩を落ち着いたトーンで丁寧に描いた『休暇』は、生と死について、寛容さについて、あるいは生きて行くことのささやかな幸福について様々に思いを巡らさずにはいられない珠玉の映画。「戦艦武蔵」「破獄」など数多くの傑作を遺した文豪・吉村昭の同名短編小説を原作に、『まだ楽園』の佐向大が脚本を、モントリオール世界映画祭2007に出品され好評を博した『棚の隅』の新鋭・門井肇がメガホンをとり、キャストには小林薫、大杉漣、柏原収史、大塚寧々ら実力派が勢揃いしている。ロケ地である山梨で先行公開され大ヒット中の本作で、感情をほとんど表さない謎めいた死刑囚役に挑んだ西島秀俊に話を聞いた。


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今回演じられた金田真一は、今までにない役ですよね。どうやって役に入っていかれたんですか?
■西島「僕は死刑囚が出てくる作品をそんなにたくさん観ているわけじゃないんで確信を持ってはいないんですけど、普通、死刑囚の出てくる映画は、事件であるとか、その男がなぜその事件を起こすに至ったかとか、裁判などが物語の核になっているものが多いと思うんです。でも、この『休暇』という映画は一切そういうことが描かれていないんですよね。金田がなぜ死刑囚になったのかということが説明されていなくて、そのことが逆に金田の闇みたいなものを浮き上がらせていて、すごく刺激的な台本だなと思って。何が金田に起こったのかということを想定しない方が、むしろ、僕は役に触れられるような気がしていて。実際、僕自身、まったく金田の過去についてとか一切想定せずに、ただ深い闇を持った男であるということを感じながらやっていました」
ほんとうに何も説明がないんですよね。独白もないし。穏やかなようで、ちょっと不気味で。
■西島「それはほんとうに台本が素晴らしくて。一行一行のふっとしたト書きであるとか、そういうものに、そういう空気が込められていたんです。実際、僕が演技でやった方向性としては、誤解を恐れずに言えば、もっとモンスターみたいな役にしてたんですね。それは門井監督が、そうではないと。もうちょっと人間的な方向に持って行ってもらって、そのバランスが結果としてすごく良かったと思います」
原作はとても短いんですが、見事な脚本ですね。
■西島「今回は脚本を読ませていただいて、ぜひ参加させていただきたいということで」
門井肇監督も脚本の佐向大さんもほぼ同年代ですね。もともとお知り合いだったんですか?
■西島「脚本の佐向さんとは、別の作品でご一緒させていただいて。別のパートのスタッフでしたけど。その後、『まだ楽園』(佐向さんの自主製作作品)も観ていて、佐向さんは監督としていつか会えるんじゃないかなって、僕は買ってるんですよ。今回、脚本ということでしたが、読ませていただいたらほんとうに面白くて」
映画好きな西島さんですが、出演するだけでなく、脚本を書くとか監督をやってみたいとか思ったりはしないんですか?
■西島「いやいや、監督するってことに関してはないですね。脚本もないです」
出るのが楽しいんですね
■西島「楽しいのかな…(笑)。でも、そうですね、映画の制作現場に関わるのは、やっぱり楽しいですね」
その現場なんですが、今回はこういう役ですから、他の作品のように和気あいあいというわけには行かなかったんじゃないでしょうか?
■西島「今回は以前共演した先輩の役者さんたちもいっぱいいらっしゃって、すごく楽しみにしていたんですけど、皆さん気を遣ってくださって、あまり話しかけてもらってはいなかったですね。実際、服も違うじゃないですか。皆さん刑務官で、僕だけ私服なんですけど、なんか違うし。僕だけポツンとしてましたね」
金田が直接触れ合うのは刑務官だけですよね。刑務官と死刑囚の関係ということを考えたりしましたか?
■西島「そうですね…。死刑囚が何を感じているのかは、言ってしまえば、絶対にわからないわけです。もちろん想像して近づいていこうと、具体的に考えることではなくて、近づくってことをやって行くわけですが、実際には乗り越えられられない溝みたいなものがあるんだなあということを思いつつ。ちょっと話はそれちゃうんですが、今回、撮影期間が短くて正直ホッとしてます。この突き詰めて行く感じが長いと、集中が切れるんじゃないかという恐怖があったので、短期間でぎゅっと撮れて良かったなと思います」
西島さんはほとんど独房の中ですが、映画全体では小林薫さん演じる刑務官・平井のプライベートな部分と交互に出てきますね。完成した作品をご覧になったとき感慨深いものがあったのでは?
■西島「そうですね、ハハハ。外の世界があんなにあるとは。僕の撮影はずっとほぼ屋内で、ある1シーンだけ空が見えるんですけど、その空もフェンスに覆われていて。見事な対比があって良かったです」
とらえどころのない金田ですが、あれは覚悟なのか諦めなのか…どうなんでしょう?
■西島「金田が何を考えているかはわからないですね。あの男はほんとうに底が知れなくて、さぱりわからない。言っていることも本心なのかどうかわからないですね」
わからない男を演じたんですね。
■西島「その役が何を考えているのかということとは違うものに触れながら演技をするということが可能なんじゃないかと思っています。それはほんとうに説明のしようのないことなんですが、わからなくても触れることはできるんです。だから、実際、あのときどうだったんですかって聞かれても、僕もわかりません。それでも演じることはできますっていう、わかやすい形だと思います今回は」
そういうやり方もあるんですね。西島さんが映画『休暇』で最もいいと思うところを教えてください。
■西島「この映画は命についての映画なんですけど、結論は出してないんですよね。ある死刑囚がいて、刑務官がいて、死刑執行へ向かう時間を描いていて。最終的には観客の皆さんに何かを感じてもらうことで映画は完成すると思うんです。ある人は命の大切さについて考えるかもしれないし、法律是非の映画ではないけれども、そのことを考えざるを得なくなる人もいると思うし、家族のことを考える人もいるだろうし。観た方が何を感じるかというところが一番の重要なところだと思います」
では、最後に公開を楽しみにしているファンの皆さんへメッセージをお願いします
■西島「『休暇』は骨太な命についての映画です。6月7日公開です。是非劇場へ足をお運びください」
メインの登場人物が刑務官と死刑囚というと、重苦しい印象を与えがちですが、実際は清々しさすら感じさせる不思議な味わいの映画です。もちろん、死刑執行に向かって進んで行く時間の緊張感は大変なものですが。とにもかくにも「わからない男」を演じた西島さんの存在感は抜群!
取材・文:齊田安起子
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『休暇』
配給: リトルバード
公開: 2008年6月7日
劇場情報: 有楽町スバル座、シネマメディアージュほか全国にて
公式HP: http://www.eigakyuka.com/
©2007「休暇」製作委員会
あらすじ
拘置所に勤務する刑務官の平井は中年になるまで独身生活を送っていたが、ようやく子連れの女・美佐子との結婚が決まる。ところが、有給休暇を使い果たしていて新婚旅行へ行くこともままならない。披露宴を週末に控えたある日、収容中の死刑囚・金田の刑が2日後に執行されることになる。処刑の際の支え役を買って出れば1週間の休暇を与えられると知り平井は悩むが…。
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人物紹介
『休暇』西島秀俊インタビュー
西島秀俊
1971年生まれ、東京都出身。映画デビューは94年の『居酒屋ゆうれい』。以後、TVドラマも含め幅広い役柄で数多くの作品に出演する。主な映画作品に『ニンゲン合格』『Dolls ドールズ』『帰郷』『カナリア』『メゾン・ド・ヒミコ』『さよならみどりちゃん』『好きだ、』『大奥』『神童』『パッチギ!LOVE&PEACE』、など。今後も『丘を越えて』『春よこい』『真木栗ノ穴』、『東南角部屋二階の女』など続々公開予定。