vol.29『モリのいる場所』沖田修一監督インタビュー

 

モリのいる場所

「30年間外に出ない」

自分の人生を豊かにするものはなにか?

この作品を観ながら考えた。

“仕事を我武者羅に頑張って、評価を得る、報酬を得る。”

“世界を旅して、まだ見ぬものに出会う。”

“おいしいお肉をたらふく食べる。”

これは私の思いつくことなので、ちょっと偏っていますが(笑)。

 

画家の熊谷守一(モリ)は、30年間ほとんど家の外へ出ることなく、庭の小さな生き物、植物を眺め、絵を描いてきた。

家とその庭の、何にそんなに魅力があるのか。

そう思ってしまう私はモリの対極にいるようで、だからこそ、この作品に描かれる“モリのある夏の1日”に強烈に惹かれるのだと思う。

山崎努さん、樹木希林さんの、初共演とは思えぬ味わい深い夫婦の姿に、

“ああ、いいものを見せてもらった~!”と試写会場を後にしました。

今作は、私が勝手に敬愛する沖田修一監督の最新作。

癖のある登場人物たちを、何とも愛おしいキャラクターにしてしまう天才。

「モヒカン故郷に帰る」ぶりにインタビューさせてもらいました。

「ある夏の1日」

昭和49年の夏。熊谷家の朝。守一(94歳/モリ)の妻・秀子(76歳)とその姪の美恵が朝食をつくっている。

朝食を終えると、モリは下駄を履き、両手に杖をとる。洗濯物を干す秀子に「いってきます」と声をかけると、秀子は「はい、いってらっしゃい、お気をつけて」と返す。行き先は、庭だ。

草木が生い茂る庭は生き物の宝庫で、モリは午前中、時に地面に寝そべり、ときに庭のあちこちに置いてある腰掛けに座って、虫たちや石を観察して過ごす。

今日も熊谷家には朝から訪問客が絶えない。縁側から入ってきた画商たちは、勝手にお茶を入れてくつろいでる。他にも写真家の藤田と助手の鹿島や、隣に住む佐伯さん、お肉屋の主人…。

秀子は様々な客と夫の間をとりもち、ゆったりと生きる夫に上手に発破をかけて腰を上げさせる。

人と人との距離が今よりも近く感じられる昭和の暮らしと、50年以上連れ添ってきた夫婦の絆が、ある夏の1日として描かれている。

モリのいる場所

 

「カレーうどんが食べられない」

「キツツキと雨」の撮影中に、山崎努さんから“近く(岐阜県中津川市)に熊谷守一の記念館があるから行ってみたら?”と言われた沖田監督。

その時は行けなかったものの、東京に帰ってから色々調べ始めたそう。

いつかまた山崎さんとご一緒したいという思いもあり、熊谷守一を山崎さんに演じてもらう前提で台本を書き始めた。

沖田監督:「今にしてみたら、本当は企画書を持って山崎さんに“どうですか?”って聞いてからの方が普通なんでしょうけど(笑)。もう、そこで断られたらしょうがないな、という感じでした。」

実在の人物を描くことについては?

沖田監督:「自伝的なことをやりたかったわけではなくて、美術にも詳しいわけではないですし。“守一さんはどうしてこういう生き方なんだろう”という興味が強くあって、今まで自分が撮っている映画とやり方は変わっていません。30年くらい外に出掛けていない人の、映画では描かない長ーい時間を想像できる仕組みにした方がシンプルな映画になるなと思って。“ある程度あったかもしれない1日”を想像して、フィクションのつもりで書いていったのがスタートラインです。」

山崎さん、樹木さんが脚本に惚れ込んでくれたそうですね?

沖田監督:「まず、山崎さんが初稿を読んだときにすごく気に入ってくださって、一日の話にしているっていう事も良く思ってくれたんですよね。初稿は(ある登場人物が出てくる←これは見てのお楽しみ)やり過ぎかな?って思ったんですけど、そこも面白がってくれて(笑)。僕も最初から真面目な映画を作るつもりはなかったし(笑)。そういう遊びみたいなことを山崎さんも面白がってくれて、現場でも台本を大事にしてくれたことがすごくわかりましたね。」

「樹木さんは、“ここはこうした方がいいんじゃないか”っていうアイデアをたくさん持ってきてくださって。あとあと見て、樹木さんの言っていたことが映画を良くしてくれているな、と。ただだだ、楽しかったんですよ(笑)。山崎さんと樹木さんが並んでいるだけでもう、他に何も要らないみたいな(笑)。だから、あまり演出はしなかったですね。昔から(守一さん夫婦は)よく口喧嘩をしていたそうで、いくつになっても息が合わない、そういう面白さがこの夫婦にはあった方がいいな~と思っていて、“秀子は常に何かをしながら守一さんを相手にする”とか、そういう感じを樹木さんが作ってくれましたね。」

モリが“カレーうどん”をうまく食べられないシーンが可愛らしかったのですが、台本にもともとあったのですか?

沖田監督:「台本にありましたね。たまたま僕が京都に行ったときに、美味しいカレーうどん屋さんがあって、行ったら僕以外全員外国人で、全員箸が使えなくて、全員うまく食べられないっていうのがすごく面白くて(笑)。アメリカ人の方がひとり食べるのを諦めてて(笑)。それを思い出して、あ!って。(守一さんは)昼はうどんかパンって文献に書いてあって、カレーはフィクションなんですけど。(台本に)“箸が滑って食べられない守一さん、ずっと見ていたい”と(笑)。」

ただ、山崎努さんが熊谷守一を演じる映画を撮りたかったという、沖田監督。

最初は、“シネコンの大スクリーンで山崎努さんの顔のどアップと虫が見たい”そんな感じだったんですよね(笑)。

と話す沖田監督のワクワクした表情に、ああ、ものづくりの原点だわ!と感じました。

ワクワクをずっと大事にできたら、それが豊かな人生なのかも。

今回もクスクス笑えて、相変わらずご飯が美味しそうで、脇を固めるキャストも秀逸で、山崎さんのどアップが見られる沖田作品を、ぜひ大スクリーンで!

 

余談ですが、沖田監督、以前に“同い年ですね”とお話ししたことを覚えていてくださって、沖田ファンとしてはものすごく嬉しかったです(泣)!

 

『モリのいる場所』
公開日:2018年5月19日(土)
劇場:シネスイッチ銀座、ユーロスペース、シネリーブル池袋、イオンシネマほか全国にて
配給:日活
公式HP:http://mori-movie.com/
(C) 2017「モリのいる場所」製作委員会

▼作品ページ
https://cinema.co.jp/title/detail?id=82536

モリのいる場所

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神取恭子(かんどり きょうこ)

フリーアナウンサー、椙山女学園大学非常勤講師。愛知県西尾市出身、1977年生まれ。
現在は名古屋テレビ放送の情報番組「デルサタ」、音楽番組「BOMBER-E」にレギュラー出演。
2002年から名古屋テレビ放送(メ〜テレ)の局アナウンサーを勤め、番組「ドデスカ!」や「昼まで待てない!」などで映画監督、俳優、ハリウッドスター500人以上にインタビューを行い、舞台挨拶の経験も豊富。
他にも、報道現場でのリポートやスポーツ番組のリポーターを勤めた。
ANNアナウンサー賞 ナレーション部門受賞。
趣味は映画鑑賞(年間200本以上)、お肉を食べること(お肉検定1級)、プロレス観戦。

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