『譜めくりの女』ドゥニ・デルクール監督 インタビュー

2008.04.18

出席者:ドゥニ・デルクール
*合同取材
Doni
ピアニストへの夢を絶たれた少女メラニーの物語を主軸に、憧れと絶望、時を経て立場が逆転した二人の女性の愛憎を、クラシック音楽の演奏という緊張感あふれる舞台を背景に、きめ細かく、情感豊かに描いた本作。
今回はご自身も音楽に精通しておりヴィオラ奏者でもあるドゥニ・デルクール監督にお話を伺った。


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オープニングが肉を捌くシーンから始まったのがとても意表をつかれました。主人公の女性を肉屋の娘にした理由と、あのオープニングを選んだ理由を教えてください。
■ドゥニ・デルクール(以下、デルクール):「肉屋の娘をヒロインに選んだ理由は、この映画をおとぎ話の様な話にしようと思ってたからです。世界中で肉屋の娘とお屋敷の奥様というのはいると思うので、子供でも“肉屋の娘”といえば庶民的で普通の平和な女の子というイメージで、“お屋敷の奥様”といえば何か高貴で素敵なイメージがあると思います。そういった非常にステレオタイプなイメージとして“肉屋の娘”という設定にしました。
                     
また、最初に肉を切るという大胆なシーンを入れたんですけれども、そのシーンで見ている人がショックを受け、「これは何か復讐劇のような、そういうジャンルの映画が始まるんじゃないか?」という不安な予感に捉えられるのではないかと狙ってこのシーンをあえて入れました。
ストーリー自体はとてもシンプルなんですけれども、観客の不安な気持ちが最後まで続くように意図して最初のシーンを作りました」
Hume1
デボラさんとカトリーヌさんそれぞれ独特のキャラクターで演じるようにされていますが、演技指導された時、特に強調した点があったら教えてください。
■デルクール:「日本の女性のように演技をして」と言いました。というのは私は2004年に京都に6ヶ月間滞在していて、その時に日本の伝統芸能をいろいろ見たり『世阿弥の花伝書』という本を発見して、そこに非常に深い示唆が含まれているなと思い、特に「間」というものに興味を持ちました。
何かをし続けるという事よりも「間」を的確に取るという事がどれだけ芸術の中で有効かという事を発見しました。なので二人の女優に「間」フランス語でいえば「空」というんですが、その「空」を作り出すという事を強く言いました。
また、動作をゆっくりすること、早くするよりもゆっくりした方がずっと二人の力が大きく感じると思うのでそういったことも頼みました。それから表情については、例えばデボラのちょっとした微笑。その笑みをどういう笑みにするかということに2ヶ月も費やしました。多すぎても少なすぎてもいけない。そういった決定的な微笑みを見つけるのにとても時間がかかりました。
凄く難しいことだったので「日本的、日本的」と言いすぎることに反発もうけましたが(笑)」
“譜めくり”という普通の人だったらあまり着目されない職業に主人公を設定した理由と、ピアノの効果音がスリリングなストーリ展開と非常にマッチしていたのですがその効果音、ピアノの演出は何か意識された部分とかがあるんでしょうか?
■デルクール:「“譜めくり”を主要な人物として選んだ理由ですが、実生活の中では譜めくりの人というのは影に隠れて消え去っているような存在です。そんなに重要性はないのですが、私はストーリーテラーですので物語を歌う為にこれは面白いと思い譜めくりの人を選びました。
        
二人の人物がいて一人は前面にいて、一人は影にいて前の方にいる人を見ている。というのが映画的に非常におもしろく、絵になる存在で、良い雰囲気を作っていると思いました。そういった見る人と見られる人という関係がユニークですよね。
        
私の従兄弟も有名なアーティストで、彼女にもアシスタントがいて譜めくりがいるのですけれども、この映画を見たら「なんだか私もアシスタントに食い尽くされてしまうかもしれない」という恐怖をおぼえたと言っていました。(笑)
音楽についてですが、この映画の中では非常に重要な役割を果たしています。まずトリオ(三人で演奏する事)を考えたときに、ショスタコーヴィチとシューベルトを選んだのですが技術的な面においてピアノはあまり難しい曲は選べないなと、カトリーヌはピアノに対して素人だったので。でも彼女は映画の中で実際に演奏しているんですよ。なので彼女が演奏できる曲目を選ばなければならなかったという制約がありました。
それから音楽監督が作曲した曲も映画音楽として使われているのですが、内容と調和するようにエチュードとかいろいろな作品がありましたが最終的にはコンサートで使われた曲と1つにマッチして溶け合うような。そんな音楽を頼みました」
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劇中では効果音やBGMがほとんど削除されていて何も音がしないシーンが多いと感じました。使われていたとしてもクラシックだったりピアノの音だけだったと思いますが、それはやはり監督が大事にされている「間」というものを強調させるためにあえて削除されてのでしょうか?
■デルクール:「そうですね、あえて音楽を入れないシーンもありました。私の敬愛している監督の一人がヒッチコックなんですが彼の音楽の使い方で、メロディー的でない映画音楽の使い方をすることによって「間」を強調することができると思いますし、全く音のないシーンは見ている人が「何が起こるのかな」と緊張感を高める為に使っています。空いているところを埋めるような音楽というのは好きではないので。ここぞというところに一人の曲を入れる。
        
それはシナリオの執筆にも言える事で、私はシナリオをどんどん削っていくタイプなのですが、一回書いてみて「ここはいらないんじゃないか」と思うところはどんどん削ります。そうするとそこに「穴」が出来ると思いますがその「穴」を監督自身の想像力を駆使して埋めていくという作業が映画の醍醐味というか、観客参加型の映画になるのではないかと思っています。
日本ではBGMのような雰囲気のための音楽が多く使われていますが、ヨーロッパではあまり使いません。例えば京都の町を歩いていても何かしら音楽が聴こえてきますね。音楽を聴かないためにはお寺に行かなければならないくらい。(笑)」
非常にセリフの少ない作品だったのですが、音楽はとても雄弁だと感じました。「ドラマと音楽の融合」への挑戦はいかがでしたか?
■デルクール:「深い感情というのは、なかなか言葉では表現できないと思うので、そういった深い感情を表現するのに音楽は適していると思います。
私は日本に滞在していましたが日本語は全然しゃべれません。ですが言葉はしゃべれなくても気持ちで対話することは出来るわけで、そういう隠れた感情を言葉ではない音楽だったり、他の芸術分野の方法を使って伝えることはできると思います。
キューブリックの言葉で『音楽と映画の融合こそ最も素晴らしいことである』と言っていました。今回私もその一端を担うことが出来、とても嬉しく思っていますしの作品についても満足しています」
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『譜めくりの女』
配給:カフェグルーヴ、トルネード・フィルム
公開日: 2008年4月19日 (土)
劇場情報: シネスイッチ銀座ほか全国にて公開
公式HP: http://piano.cinemacafe.net/
(c)Phillippe Quaisse



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