『ジプシー・キャラバン』ジャスミン・デラル監督 インタビュー

2008.01.11

“ロマに対する変な先入観をなくしたいの”
Photo_2
ロマ(ジプシー)の血を持つ4つの国5つのバンドが北米諸都市を回るツアーを追い、それぞれのルーツに迫る『ジプシー・キャラバン』。ロマ(ジプシー)音楽といっても、その形態はさまざま。ロマ出身の監督のトニー・ガトリフの音楽映画『ラッチョ・ドローム』を見ればわかりやすいが、北インドを発祥とするロマの人々の音楽は、移動を重ねるごとにその土地の音楽を取り込み、独特のミクスチャー音楽を作り上げてきた。この『ジプシー・キャラバン』に登場するバンドの使用楽器もバラバラで、民族音楽からポルカ、フラメンコまで音楽性も多様だ。しかしその底には共通するものも流れている。それは彼らの血に流れる「生きる歓びや悲しみ」のストレートな発露だ。遠く離れて活動をしてきたそれぞれのバンドが、ツアーを通じてお互いの共通性を感じとっていく姿は感動的だ。
今回は本作の監督であるジャスミン・デラルさんにお話を伺った。


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一冊の本に出会い本作の制作を決めたとお伺いしました。
その本はどのような本で、どこに惹かれたのでしょうか?

■ジャスミン・デラル監督(以後、ジャスミン監督):「『THE GYPSIES』という本で、オランダ系アメリカ人の“JanYoors”という方が著者なの。その本を読み終わったのがインドからアメリカに帰る飛行機の中で、その時にインドから始まったロマ族(ロマ=ジプシー)の旅路と私の旅路が似ていると感じたの。私は飛行機でヒューっと帰れるけど、彼らは長い時間をかけて旅をしたということが、私に強い印象を与え惹かれたんだと思うわ」
以前からロマの知り合いはいました?
■ジャスミン監督:「最初の映画『AMERICAN GYPSY:a stranger in everybody’s land』を撮るまでは友達としては周りにいませんでした。ただ私は幼い頃からインドで暮らす機会が多くて、「私の祖先はロマなの」と話す人は周りいました。インドの文化や環境を知らない人は強い先入観を持っていると思うの。「汚くて、泥棒が多い!」または逆に「神秘的で夢の世界のようにロマンチック」とか。本当に二極的な先入観なんだけれども、ロマに対する先入観が正にそれと同じなんだと思うの。そこにも興味が惹かれたわ」
Jc2本と出合う前、監督自身はロマに対してどんなイメージを持っていました?また本と出合ってイメージは変わりました?
■ジャスミン監督:「どちらかと言うとロマンチックなイメージを持っていたかな(笑)。幼い頃やっていた歌遊びで「悪い女の子だとロマが来るぞ!一緒に遊んではダメだぞ!」という歌詞があったの。幼かったのでその歌詞の意味はよく分からなかったのだけれど、ロマの子供は学校にも行かなくていいし、もちろん宿題もないから「ずっと遊んでられて羨ましいな~」と思ったことはありました(笑)。でもそれはすごく古い考えだと思うの。「本当はどんな生活・考えを持っているんだろう」と知りたくなったわ」
本作の影響力は感じていますか?
■ジャスミン監督:「映画を観てもらった方の考えが変わってほしいと心から願って止みません。この映画を作るきっかけが「ちゃんと目を開いて真実を見て欲しい」と思ったからなの。「差別とはどのような事が原因で起こるのだろうか?」と考えたときに、私は人間の“無知”から起こるのではないかと考えたわ。彼らはロマである前に一人の人間なの。その当たり前の事実に気づいて欲しい。私の映画作りのゴールは、彼らが個々として人間だと気づいてもらう事。“映画は政治的意味を込めなければいけない!”という人もいれば、“政治的な意味を一切入れたくない!”そんな考えの人もいると思うの。私自身は人種差別の問題定義は政治的な要素を入れなくても出きると思っているし、そのいい例が本作を観たあるアメリカ大使の方が来て、「アメリカでは毎年人種差別の偏見を無くすために、実は莫大なお金をかけている。しかしこの映画を一本観ただけでそんな事をしなくても心を打たれました。そして自分自身にまだ偏見があった事を気づかされた。」と語ってくれました。このときが一番報われたと思いました」
長い間ロマの方と関られていますが、そこまで惹きつけられる要因は何だと思いますか?
■ジャスミン監督:「この映画が完成するまで実は5年も掛かり、撮影には1年弱、他は編集ために3年弱もかかったの。200時間の膨大な映像の編集は、9ヶ国語の言語を訳すところから始まり、どの言い回しがしっくりくるか慎重に選んだわ。大変な編集作業をやり通せたのは、ロマは本当に素晴らしい方達ばかりなのにアンフェアな扱いを受けていて、私の性格上に何の理由もなしにアンフェアな扱いをされている人を見ると「何かしなければ!」と思うの(笑)。ロマに対する先入観で間違った考えを持っている人をみるとちょっと怒りさえ覚えてしまって、それがパワーとなり最後までやり遂げられたのかもしれないわね(笑)」
撮影中に一番印象に残ったエピソードは?
■ジャスミン監督:「マケドニアで私とカメラマン2人だけで撮影したときなのですが、ロマの演奏家を囲んですごい数の観客がいました。私は下手なロマ語で話しかけ、上手くコミュニケーションをとるために私のロマの友達に電話を繋いで、その人に私の言葉を通訳して会話したの。その瞬間から演奏家の方々が“この人にはロマ人の友達がいる。ロマ人が受け入れた人なんだ”と思ってくれて私達を受け入れてくれたの。演奏が終わるにつれ人も少なくなってきたとき、ロマの友達が迎えに来るまで演奏家の方々が一緒に待ってくれる事になったの。演奏家達と友達のロマ人は知り合いじゃないのだけれど「ロマがあなたを友達と思っているいじょう、僕らはあなたの面倒を見なければいけない。だから僕らも一緒に待つよ。」と言ってくれたの。彼らはそういう事をすごく大事にしていて(監督はその行為を“take care”と表現していました。)、それが一番印象に残ったことですね」
監督はロマの方に受け入れられたわけですが、最初彼らはどのようにアプローチしてきたのでしょうか?
■ジャスミン監督:「最初の映画を撮るときは大変だったわ。ロマの知り合いもいなし、ロマ語も喋れなかったから。ただ今回はロマ語も片言ながら喋れたし、前作を観たロマの方が良く思ってくれて友達にもなれたし、今回の主人公達もロマですがアーティストなので沢山の方接してるというのもあって前回よりはやり易かったですね。ただ「もうやめようかな」と思ったこともあります。それは全身全霊をかけて彼らのアンフェアな扱いを人々から取り除こうと思ったのですが、どんなに頑張ったところで私は彼らにとってアウトサイダー(外者)であってそれは変えようが無い事実だと分かったときにですね」
諦めなかたったのはなぜ?
■ジャスミン監督:「まず私がアウトサイダーであることを受け止め、偏見の無い開かれた目を持つことが何よりも大切な事を知ってもらいたかったからですね」
Jc1撮影で苦労されたこと、編集で心がけたことは?
■ジャスミン監督:「沢山の困難がありました(笑)。一つの挑戦だと思うことがあって、それは登場人物の一人が亡くなり、私はすぐにご家族に電話をしました。「よければお葬式に出てくれないか?」と言われ、ただお葬式が翌日だったんですね。ニューヨークから現地に行くにはどう考えても無理だったの。なのでベルギーの知り合いのカメラマンに早朝3時くらいに電話をかけまくって事情を説明しました。電話に出たときはさすがに「こんな朝早くにいったい何なんだ!?」と言われたけど、それでも彼は快く引き受けてくれて、お葬式を撮影することができたの。おかげでギリギリその映像を本編の最後に入れ込むことができたわ。結構大変な騒ぎだったの(笑)。
編集ではどこにどの映像を使用するか、どの順番にするか、映像全体を把握するのが大変でした。観た人が納得のいく映画にするには、何度も何度も観て構成を練らないといけないですからね。あとは彼らの人間らしさを感じてもらえる映像を入れるのと、彼らの音楽も感じてもらいたかったので、そのバランスをとるのに心がけて編集したわ」
監督はどのような時に映画を撮りたくなりますか?
■ジャスミン監督:「この映画は実は偶然から生まれた映画なの。すでにロマの映画は撮っていましたし、2本目を撮る考えはありませんでした。たまたま「ロマ音楽コンサートの映像を撮ってみないかい?」と言われ、コンサート会場の魔法の様なステージと、舞台裏のエネルギッシュな彼らの姿をみて、「これは映画にしないと罪になる!」と思ったの。ロマ音楽のパーティーがあったら自然に体が動いて誰でも参加したいと思うでしょ。そんな欲求を満たしつつ、彼らの人間的な側面を映し出せる場はそう滅多にないわ。
私が映画を作りたくなる瞬間は、偶然に私だけが見たの特権的なものを多くの人と分かち合いたいと思ったときでしょうか。映画を作るというのはすごくエネルギーのいる事で、今回撮り終えたあとすぐに別の面白そうな題材があったのだけれど、エネルギーが空っぽでちょっとでも手抜きはしたくなかったので断ったの。110%の力が出せるときだけ撮るようにしてるわ。恋愛に似ているかもしれないですね。人と沢山出会い、その中で恋に落ちるのは1人だけですよね。それって知的な理由ではなくて、恋に落ちた時は“恋に落ちた”としか言いようがないと思うの。それと同じかな」
監督が見たものを他の手段で分かち合う方法もあると思うのですが、なぜ映画を選んだんでしょうか?また、影響を受けられた映画監督がいらっしゃったら教えてください。
■ジャスミン監督:「来世では音楽家になる予定なんだけど、今は楽器が出来ないので映画を選びました(笑)。私は自分自身を結構な“理想主義者”だと思っいて、この地球上でほんの少しでも良い事があったらいいなと思ってるの。世の中を良くするには政治家もいいと思ったけど、性格上向いていないと思って。そんなときに映画がコミュケーションの手段とし最適だと思ったの。押し付けでも無理やりでもない、それを観た人は何かを感じる事ができるじゃない。
好きな映画監督はケン・ローチで、彼の映画は役者を使っているけれどもドキュメンタリーの様なタッチなので気に入っているわ。他にはアフリカやルワンダを題材として撮っているラウル・ペック監督。彼の映画を観たときに映画の持つ力に気づかされたの。大作だけが映画ではないってことにね。特に現代社会におけるインターネット、TV、新聞などのメディアの持つ力は、個々が持っている情報を人々に伝え大きな影響を与えると思うの。ただ、『ジプシー・キャラバン』の様な独立系の映画は中々知ってもらうことが難しいけどね(笑)。アップリンクの様な会社がもっと増えて欲しいですね」
本作にはジョニー・デップが出演していますが、どのような経緯で出演が決まったのでしょうか?
■ジャスミン監督:「3年間エネルギッシュに出演依頼の手紙を書き続けたわ(笑)。彼は大スターで世界中からアプローチが来ていると思うの。それでエージェントがしっかり仕事を選び彼を護っていて、エージェントか秘書か分かりませんが、彼の手元に手紙が届くまでに捨てられていたそうです。ただ運良く1通が彼の目にとまり、その手紙を出した10日後に彼から電話があって「僕はいつでも協力するよ!タラフ(本作出演バンド)も好きだし、ロマも好きなんだ。」と言ってくれて出演してする事に決まったの」
『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』で今来日してますよ!
■ジャスミン監督:「え、本当?どうやったら連絡できるの?(笑)。彼が行くところは常に大混乱だと思うけど、彼自身はすごくいい人よ」
Photo_3全編を通してロマの方がとても陽気ですよね。そのエネルギーはどこから来るのでしょうか?
■ジャスミン監督:「非常に厳しい攻撃を受けたとき人は2つの選択をすると思うの。一つは泣き暮らすか、笑い飛ばすか。ようは生きるか死ぬかだけど、彼らは笑い飛ばし生きる方を選んだのだと思うの。だから彼らは自分達の世界に篭るというか、外の世界の人と関れば自分達が差別されるのを分かっているから、自分達の世界に留まろうとする傾向があるわ」
ほんとずっと演奏していましたね。移動中のバスの中でも。それも笑い飛ばして生きるに繋がるんでしょうね。
■ジャスミン監督:「そうですね。彼らはロマである前にアーティストでもあるから、常に音楽と生きているんだと思うの。普通のアーティストと違うのは楽しければ飛行機の中でも演奏してしまう所かな(笑)。宿泊中のホテルで深夜の2~3時くらいに演奏したこともあって、さすがに支配人に注意されたわ。彼らは各国から集まったロマなので、言葉が通じない場合もあるの。なので音楽で会話していたのかもしれませんね」
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カッコよく美しいジャスミン監督でした。ロマの方々はほんと陽気。観ているこっちもなぜか元気になれる、素朴で温厚な人達。日本ではそうでもないかもしれませんが、外国では相当偏見の目で観られているようです。なんで差別されるのか不思議でならない。ノリノリで楽しめる映画ですが、それと同時にロマへの差別を考えさせられる映画でもありました。音楽好きとか関係なく必見な一作だと思います。
※ジプシーは差別用語です。詳しくはwiki
『ジプシー・キャラバン』
配給:アップリンク、AMGエンタテインメント
公開:2008年1月12日
劇場情報:シネ・アミューズほか全国にて順次公開
公式HP:http://www.uplink.co.jp/gypsycaravan/



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